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第3幕【第25話】リーダーへのヒアリング①

順子は、天真爛漫で失敗を恐れない子どもであったが、大人になるまでに様々な経験を重ねたことで、石橋を叩いて渡るような性格になった。しかし、子ども時代の天真爛漫さは今でも時々顔を出す。思っていることを自分の中に留めておけず、率直に言葉にするような時などだ。

リーダーという立場になることによって、自分の事だけではなく、チームや園全体のこと、さらに子どもの育ちに対して大きな責任を感じるようになり、さらに自分の言動に慎重になっていった。

栗田が行った園内研修から二週間経ったが、まだ順子は二人のリーダーにヒアリングができていなかった。それは二つの恐れを感じていたためである。

一つは、「リーダー会議」を実施したいという提案が受け入れられないのではないかという恐れ、そしてもう一つはヒアリングがうまくできなかったらどうしようという失敗することへの恐れである。

乳児リーダーの滝本真玖(たきもとまく)と、幼児リーダーの飛田虎太(ひだとらた)はリーダーとして頑張っていると思う。もちろん、保育者としては未熟なところはあり、順子は時々気になったことを伝えることはある。だが、二人は順子の指摘に反論することもなく、素直に聞くことがほとんどだった。そのため順子は二人を信用していた。

滝本は、別の保育園に通う3歳の息子が熱を出して急遽休むことが多い。その事を後ろめたく感じているのか、リーダーとして自分がうまくできているかどうかいつも不安そうだ。時々、順子にも胸の内を話すことがあり相談に乗っていたが、順子自身もリーダーシップに関しては良いアドバイスができていないと感じていた。

飛田は、小学生の時から野球チームに所属しており、身体だけではなく声も大きい。子どもたちにも人気の保育者だ。しかし、迫力があるので少し怖がっている保育者もいる。保育に対して情熱があり、以前勤めていた幼稚園では自分の信じる保育ができないと感じて、さくら保育園に移ってきた。就職面接で保育について熱く語っていた姿を、順子はよく思い出す。たまたま面接官の一人として同席した順子は、聞いていて胸が熱くなったものだ。

保育のアドバイスを二人に伝えることは、これまでもしてきた。だが、二人の話を聴いた時間は、たしかに少なかったかもしれない。二人がリーダーとしての自分の役割をどのように受け止めているのか、どのような思いを持って仕事をしているのか、順子は答えられる気がしなかった。


しかし、次に栗田が来るまで残り二週間だ。栗田に「できませんでした」と報告するのは悔しい。また、栗田も順子に少しは期待しているのではないかと思うと、その期待を裏切ることはしたくないという思いもあった。

「ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦」一覧はこちら
https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1

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