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村上春樹を初めて読んで感じたこと。

「風の歌を聴け」読了。

いままで、村上春樹の本を読んだことがなかった。正確にいえば、本の背表紙に、その作者の名前がプリントされた本を見たことはあった。だが、本を開いて最後まで読んだことはなかった。
読んでみようと思ったキッカケ、というものは特になくて、なんとなくアマゾン上で立ち読み的にお試しで最初の何十ページかのKindleをダウンロードしたとき、ちょろっと読み始めてみたら、サクサクと読めてしまって続きが気になるなぁ、ということで最後まで読んでみようかと思ったのが1ヶ月ほど前のことだった。

だけど、よく行く本屋には村上春樹のデビュー作といわれる「風の歌を聴け」を置いていなくて、多分書店のでかいところにいけば売ってるんだなと思ったのだけど、検索するのも面倒だわと考えたとき、いつも朝ウォーキングをする近所の図書館に何気なく立ち寄ったらあったのだ。

主人公の話が中心であるけれど、ネズミと主人公、僕の会話はなんだかとても不思議で。でもストーリーの中身はどこかリアリティがあって、特に「デレク・ハートフィールド」のくだり全部が本当に実在するのではと思ったほど。なにより「あとがき」にも登場するから、読み終わったときには、デレク・ハートフィールドはやっぱりいるんだろうかと考えてしまった。

発達した文明の産物であるスマホで検索しては、架空の人物であるとウィキペディアに項目が出来ているページに辿り着く。そこにはデビュー作品を読んだ読者が同じようにデレク・ハートフィールドを探して作品を読みたいと思った人が後を絶たないと書いてあり、うわぁ〜私もだ(笑)と思った。

ここまでくると、村上春樹のデビュー作はリアリティがありながらも、それだけでなく読後、読者に強い影響を及ぼしたことを実感する。

更に凄いなと思ったことは、本文中の巧みな文章の書き方だった。何かを上手く例えるように説明する文章の巧さがとにかく素晴らしかった。そして肝心のストーリーは正直に言うと、若者の日常を描いているに過ぎないのに、ネズミというキャラクターが人間社会に普通に溶け込む描写がどこか違和感なく読めてしまうという摩訶不思議さを感じた。

文章は皆、日本語で分かりやすく読みやすい。どこか洋書を読んでるような感覚を感じた。こういった感覚をもって読んだことはなかったから、私の中で1ページ読むごとに村上春樹に対するイメージが変わっていた。読む前は、読みにくい世界観のある本なのかと勝手に思っていた。そして、いつも私が読むのはミステリーとか推理小説というカテゴリーであったので、そのカテゴリーに当てはまらない本を最後まで読みきったというのは、未だかつてなかった。

自分でも、文章を近頃は書くようになって思うことは「語彙力」の欠如とどう乗り越えるかで、随分悩んでいる。しかし語彙力とは、そもそも何なのか、そして語彙力を向上させるに高めたり育てたり鍛えたりするには、どうすれば良いかずっと悩ましく思っていた。
しかしながら、ようやく解決策が見えてきた気がした。どうやって乗り換えたら良いのか。

本をたくさん読めば良い。それは確かに凄く重要だと思う。だけれど、たくさん読めば良いかというと、多分違うと思う。本によっては最後まで読めてなくて積ん読になりやすい本もあると思う。それでも、村上春樹のデビュー作の本は飽きることなく最後まで読めた。なぜここまで食いついて読んだかというと、ストーリー以上に、次から次へ出てくる文章のリズムを感じたから。文章には絶対にリズムがあるのだ。自分が読みたい感覚のリズムとは違ったリズムを感じた本は、皆、積ん読になってしまった。もちろん、時々は本を開いて1〜2ページ読んだら、また閉じるのだけど。

図書館には、他に村上春樹の小説の書き方に対する本もあった。適当なページを開いたとき、本当に驚いたのだけど、執筆するときにはリズムが必要だと解説していた。自分が読みやすい本で最後まで読めるのは、恐らく作者が書いたリズムと、読者が読むときに心地よく読めるリズムが丁度合ったとき、その本は積ん読にならないのではないだろうか。

もちろん、村上春樹の口コミには様々な意見も寄せられている。「読んでもまったく感動はないし、何が面白いのか分からない」とするコメントをする人、逆に貪るように読んで中身に没頭した読者は「最高に良かった!!」と評価する人もいる。

ミステリーや推理小説だと、中身に面白さ、奇抜さ、楽しさ、意外さ、などバラエティーに富んだ評価の基準が読者の口コミにはよく見られる。その口コミによっては、この本ならトリック面白そうだとか、ロジック凄そうとか読者が口コミで興味を持ち、手にする機会を得るか得らないかジャッジされることもあると思う。

だけど、村上春樹のデビュー作には、人の口コミほど当てにはならないかもしれないと思ってしまった。この本から独特な文章、語彙力のリズムが何より凄いという感想を持ったことは、残念ながら人=私の感覚でしかない。私の中でのリズムの感覚が、ちょうど気持ちよく不思議な気持ちにさせてくれた本であって、評価しづらい本だと思えた。

もし読んだことのない人がいたら、読んでみてほしいとも思うが、誰でもこの本は素晴らしかったと感じるかは別である。

だから、私は引き続き、今後も村上春樹の本を他にも読んでみたいと思い二冊目の本を手にした。積ん読にならなければ良いのだがーー。


宝城亘.


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