見出し画像

家畜化・ペット化は種を絶滅から守る有力な選択肢

クマを家畜化できるかどうかについて記事を書く予定でしたが、その前に気になる記事を見つけたため、それについて生物学科出身者の視点から意見を述べることにします。


家畜化が動物を絶滅に追い込んでる!?

この記事は2023年現在では8年も前に書かれた古い記事で、しかも全文読むにはJBpressに有料会員登録をしなければなりません。もちろん、こんなトンデモ論だとわかりきっているもののために500円課金するのは御免被りたいので、課金せず読める範囲について反論していくことにします。

結論から言うと読める範囲だけで既に突っ込みどころ満載で、家畜化することが動物を絶滅に追い込んでるという主張はハムスター、ウーパールーパー、ウシ、ウズラに関して言えば完全に間違いです。

もし著者がこの8年の間にちゃんとした知識を身に付けていたとすればこの記事は黒歴史になっていることでしょう。だから有料会員限定にしてるのかもしれませんが、のっけからおかしいのであまり意味がないです。

どこがどうおかしいのか、生物学の専門家の視点から順を追って解説します。

ゴールデンハムスターはもともと絶滅する運命だった

記事ではゴールデンハムスターを品種改良することによって祖先の性質が失われているかのように主張していますが、これは完全に誤りです。絶滅危惧種になってる原因は生息地の政情不安や、野生化したイエネコによる捕食、害獣としての駆除が原因であり、早かれ遅かれ絶滅する運命でした。

ところがその運命を変えた出来事がありました。1930年、生息地のシリアでゴールデンハムスターの親子が捕獲され、愛くるしい見た目から繁殖が繰り返されて絶滅危惧種から一転、世界中でペットとして親しまれるほどになりました。

個体数やバイオマス(全個体の総重量)で言えばハツカネズミやドブネズミには及ばないにしても、地球上の全てのげっ歯類の中では間違いなく上位に入ってると言えるでしょう。

つまり、家畜化(ペット化)されたことによって絶滅の運命から救われたのです。より人間の嗜好に合うように品種改良した結果元の性質が失われても、それはペットとしての適応進化に過ぎません。

ウシの祖先が生き残ってない理由

この記事ではウシについても述べられているようです。課金しないと読めないのでどんなことが書かれてるかわかりませんが、どうせ乱獲したからいなくなったとか、一旦家畜化したウシの遺伝子が野生種に混ざったせいで滅びたなどというような頓珍漢なことが書かれているのは容易に想像がつきます。

ウズラでもウーパールーパーでも言えることですが、生物の遺伝子は環境に応じて絶えず変化しています。これが白亜紀のような安定した時代なら1億年近くほとんど形が変わらないこともあり得ますが、人類史の時代においては環境が変化するペースが速いためそれに合わせて急速に形を変えなければ滅びてしまいます。

ウシの祖先が生き残ってない理由は環境の変化について行けなかったからであり、ウシを家畜化したからではありません。

もっとも、ウシを家畜化したことでより多くの食料を得た人類が生息域を広げて、その結果野生種の生息地が失われて絶滅に追いやられた可能性は否定できませんが。

ウズラの祖先はイエネコに捕食されたのが絶滅の原因で、ウズラを家畜化したことが原因ではありません。ネコを家畜化したことが原因だと言えば正解だったのですが。

家畜化した動物は勝ち組だ

ところで、一部の動物愛護団体には家畜化することが動物の権利を侵害する悪いことだと見る向きがあるようです。確かに食べられるために生まれてきて殺される牛や豚の運命は残酷だと思いますが、そもそも動物たちの生きる目的が子孫の繁栄だと考えれば家畜こそが選ばれし勝ち組とも言えるのです。

哺乳類のバイオマスは家畜が圧倒的

炭素量換算した地球上のバイオマス分布。Aは全生物の分布で、Bは動物を拡大して細分化している。家畜のバイオマスは野生哺乳類や鳥類と比較して圧倒的で、ヒトよりも多い。

この図は生物体として存在する炭素原子が生物ごとにどれだけ分布しているかを示した図です。全生物で見れば植物が圧倒的で動物は右下に少しだけという感じなのですが、それを拡大して動物の種類ごとに分けると興味深い傾向が見えてきます。

動物の中では節足動物と魚類が圧倒的で、図には書かれてませんが節足動物の内訳はほとんどが昆虫です。哺乳類はそれらと比べるとかなり少ないですが、多くが陸上でしか生きられない割には健闘しています。

哺乳類の内訳もまた大きな格差があり、ヒトと家畜が大部分を占めていて野生動物はほんの少ししかいないのです。特に家畜はヒトよりも多く、家畜が大繁栄していることによって哺乳類のシェアが大きく底上げされていることがよくわかります。

もし家畜がいなければ人類も繁栄せず、野生動物が多少穴埋めしたとしても哺乳類のシェアは史実の1割に過ぎなかったと考えられます。

絶滅危惧種を守る方法は家畜化・ペット化しかない

人類の活動により地球環境は目まぐるしく変化し、それによって多くの動物が絶滅の危機に瀕しています。中にはクマのように絶滅したほうが良さそうな動物もいますが、絶滅すると遺伝子が永遠に失われてしまうので可能な限り絶滅は避けられるべきです。

保全活動は虐待であり税金の無駄

野生動物の絶滅を防ぐために各国では保全活動を行ったり、人為的に繁殖させた個体を放すということをやっていますが、はっきり言ってそのほとんどが徒労に終わることでしょう。特に後者に関しては保全の名を借りた動物虐待とすら言えます。

(余談ですが、生態系保全のためなら動物虐待・虐殺も厭わない保全生態学者という名の税金泥棒は保全を名目に国からお金が貰うことが目的なので実際に絶滅を防げるかどうかはどうでもいいのです。)

人類が生息域を大きく縮小しない限り環境の変化による野生動物の絶滅は避けられません。野生動物を守るという大義名分でそこに住んでいる人間が立ち退いたり失業してもいいかと言うとそれはもちろんノーでしょう。

もはや絶滅は既定路線であり、絶滅危惧種が絶滅種にならないためには野生下での絶滅は容認しつつ人為的に保護飼養するしかないのです。

ペット化すれば多様性が生まれる

絶滅危惧種の多くは研究所、大学、動物園などで飼育されていますが、それだとどうしても個体数が少なくなってしまうので十分な遺伝的多様性が保たれません。人為的に繁殖させた個体を放しても結局全滅してしまうのは遺伝的多様性が乏しいことが関係しています。

一方でペットとして多くの品種が作られ、たくさんの人に飼育されれば遺伝的多様性が生まれて、伝染病などによる絶滅は起こりにくくなります。

冒頭で述べたゴールデンハムスターにも多くの品種や血統が存在し、実に多様性に富んでいます。むしろ、自然選択の影響を受けにくい飼育下だからこそユニークな多様性が生まれると言えます。

家畜化できる動物には条件がある

実はどの動物でも家畜化・ペット化できるわけではありません。イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ハムスターなどの家畜化された動物はもともと家畜としての素質があったのです。

有史以来人類は様々な動物の家畜化を試みてきましたが、今日において家畜化された動物がごく限られているのは裏を返せば家畜化に成功した種がそれだけしかなかったということです。まさに家畜は選ばれし勝ち組なのです。

では最近世間を騒がせているクマを家畜化することは可能なのでしょうか。次回の記事ではクマを家畜化することがそもそも可能かどうかをまず考えて、それからその具体的な方法について述べたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?