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『ケースで学ぶ在宅医療のこれから 〜医療政策の方向性や新しい技術を生かして〜』【#在宅医療研究会 オンライン|4月度開催レポート】

在宅医療に取り組むわたしたちにとって、今後在宅医療のニーズはどのように変化していくのか、時代の変化に応じてどのような在宅医療が必要となっていくのか、気になっている方もおられるでしょう。
 
今回の講義では、在宅における精神科医としてのご経験のほか、厚生労働省で政策立案に携わり、現在は千葉大学病院次世代医療構想センターにてセンター長・特任教授を務める吉村健佑先生に、これからの在宅医療について、医療政策や新しい技術を生かした医療提供の在り方などについて、ご講義いただきました。

■在宅医療の需要と変化

1)日本の総人口の推移

まず日本の総人口の推移を見ると、2010年をピークに減少に転じています。しかも、減少の速度は加速していくことが予想されています。
 
例えばコロナ禍で大変であった2021年ですが、この一年間で日本では人口推計上64万人もの人口が減っています。これは鳥取や島根などの人口に匹敵する数の人が減ったことを意味します。
 
さらに今後2026から30年は、毎年68万人、2031年以降は毎年82万人、2041年以降は毎年90万人もの人口が減少していくことが予想されています。政令指定都市である千葉市の人口が約90万人ですので、この頃になると毎年政令指定都市がひとつ消えていくことになるわけです。
 
日本は高度経済成長期に、インフラを整備して病院を作り、医師や看護師を増やしてきました。しかし今後中長期的には、減少する人口に合わせて、より医療をコンパクトにしていく、あるいは地域によっては撤退していきながらも、全体として医療を維持する必要が出てくると考えられています。

2)医療需要の変化

この事実は、今後国や地域の姿が大きく変わっていくことを意味しています。
①亡くなる場所や亡くなる前のケアの変化
人口が減っていくということは、亡くなる人が増えるということでもあります。死亡数は今後増加し、2040年ごろにピークを迎えることが予想されています。したがって、亡くなる方へのケア、特に亡くなる直前の医療や介護をどこで誰が提供するかということが、重要な課題となります。
 
現在、自宅や介護施設で亡くなる方が増加する傾向にありますが、ここでひとつのケースを紹介します。
 
訪問診療のケース 50代男性
悪性腫瘍末期 維持透析中
病院の担当医から、余命1か月と宣告を受けたが、生きる希望を失わないでほしい、という家族の希望もあり、本人への余命告知をせず、家族との時間を過ごすために訪問診療を開始。自宅での看取りを想定していたが、突然の吐血があり、救急要請。透析を受けていた病院へ搬送されたが、死亡が確認された。
 
このケースでは、病院の担当医から訪問診療医への情報提供が詳細に行われていたため、診療方針は容易に決めることができましたが、本人への余命宣告をしないままでよかったのか、本人が意思決定をしない状況でも本人の尊厳を守り、家族の希望を尊重するのは、どうすればよかったか、悩ましいケースでした。
 
国としてもこのような状況を解決するひとつの方法として、「人生会議」(ACP:Advanced Care Planning)、を提唱して、普及させようとしています。まだ課題はありますが、このようなことを考える土壌づくりは必要で、現場で利用できるようにするにはどうしたらよいか、そのために行政が果たすべき役割もあると考えています。
 
②入院・外来・在宅の医療需要の変化
日本における入院患者数は、2035年くらいがピークになると言われています。実はすでにピークを過ぎた地域もあります。外来患者数は2015年がピークで、今後ほぼすべての地域で減少の一途を辿ると予想されています。つまり今後は入院、外来も需要が減少していくので、それぞれ役割を明確にし、分担し、連携することも必要になってきます。
一方在宅医療は、2040年以降にピークが来ることがわかっています。つまりまだしばらくは需要が伸びていくと考えられています。従って新しく在宅医療に参入する医療法人など事業者が増えてきていますし、減少する外来や入院の需要を在宅に転換する動きもみられはじめています。
 
日本の年齢別の一人当たりの医療費や介護費を見ると、特に高齢者において医療費も介護費も突出していることは、周知の事実かと思います。
 
日本の医療と介護の費用を諸外国と比べると、対GDPでは実に世界第2位の規模になっています。従って、今後持続可能な医療を提供し続けるためには、医療費の支出の適正化が避けられなくなっています。つまり今後は無理のない、無駄のない、ムラのない効率の良い医療・介護の提供が必要になってきます。これは医師の働き方改革を通じた無理のない医療、医療機能などを集約化することによる重複をなくす無駄のない医療、また地域格差を最小限にし、どうすれば困っているところに手が届くか、というムラのない医療が必要です。
 
③需要の変化に対応する在宅医療提供体制
ではどのように効率化を図っていくといいのか。現在、入院については地域医療構想、また外来、在宅医療については、地域包括ケアの枠組みのなかで考えられています。
 
厚生労働省が提示する在宅医療提供体制に求められている機能には、退院支援、日常の療養支援、急変時の対応、そして看取りがあります。そしてそれぞれの機能を果たすと、診療報酬や介護報酬、訪問看護の報酬が得られる制度設計になっています。
 
また在宅医療だけで完結させるのではなく、介護と連携させることで、効率よく推進させることも考えられています。そこには、介護事業所が果たす役割もあります。
 
介護報酬の改定の動向を確認しておくことも重要です。認知症の患者さんへの対応や看取りをすること、医療との連携を進めること、在宅サービスやリハビリテーションの取り組みを強化すること、このような機能のどこに注力すべきか、これは介護報酬が改定される動向を見ると、国がどこに資源を投入しようとしているのか、どこに医療関係者を誘導しようとしているかが読み取れます。
 
在宅患者訪問診療料と往診料の推移を見ると、往診料は横ばいであるにもかかわらず、訪問診療料は大幅に増加しており、まだ頭打ちしていないことがわかります。またその対象の9割は、75歳以上になっています。
 
在宅訪問医療を提供する医療機関については、診療所では全体の約20%、病院では約30%にも至ることがわかっていますが、その推移は大きく変化していません。つまり在宅患者訪問診療料は増えているけれど、提供する施設数は増えていないということになり、各施設のアクティビティが増加していることが示唆されます。
 
なお在宅療養支援診療所・病院については、病院は増加傾向にあり、診療所については増加傾向にあったものの近年は横ばいになっています。

■在宅医療機関と地域内連携

さて,在宅医療に取り組む方々は、今後どのような方向性で事業を進めるのが良いのでしょうか?そのような視点で在宅医療機関と地域内連携について考えてみたいと思います。

1)在宅診療でよくみられる疾患に対応するための連携

まず日本人の亡くなる理由に注目してみたいと思います。近年、疾病構造の変化が起こっています。2018年以降、三代死因に老衰が入ってきました。つまり人は病気を克服し、天寿を全うする人が増えて来たということになります。そして病気を克服した人は、亡くなるまでの長い期間を、自分の家で過ごすことになりますので、在宅医療はますます必要となっていきます。
 
続けて訪問診療のケースを紹介します。
99歳女性
認知症IIIb 要介護2 心不全の既往あり
グループホームに入所、数年前からADLが低下し訪問診療を利用するようになった。生活は制限されているが、少し外出はできる程度です。2か月前から心不全の悪化が見られ、息切れの症状が増悪しました。
家族は苦しまずに逝かせてあげたいので医療機関への入院を希望、入院後は状態が落ち着き、医学的にできることがなくなったために退院。その後入退院を繰り返します。最終的には経鼻胃管、喀痰吸引が必須となり、グループホームを退所。医療ケアが可能な施設へ転院となりました。
 
これは入退院を繰り返し始めた頃に、入院や医療ケアでできることについて、しっかりと家族や施設職員に伝えていたのだろうか?医学的な介入をもっとしっかりとすべきだったのか、緩和ケアを早めに導入すべきか、悩んだ事例です。
 
訪問診療で対応している疾患にどのような疾患があるのか調べた資料があります。すると心不全のような循環器疾患、脳卒中である脳血管疾患、認知症、糖尿病、骨折や腰痛などに対する訪問診療が多く行われていました。
 
まずは自分たちがこれら頻度の高い疾患の対応に精通することが、大切です。自分たちだけで対応できない場合は、自分たちの持つ強みを生かしつつ、他の専門医療施設との協力が重要です。

2)増えている精神疾患に対応するための連携

精神疾患を有する患者数の推移を見ると、特にアルツハイマーの人も増えてきています。この推移を見ると、精神疾患を有する総患者数は、右肩上がりに上昇を続けています。
 
人口あたり外来で精神科医療の供給を、通院精神療法の算定件数から見た資料によると、地域格差があることがわかります。外来での精神医療なので、在宅とは異なりますが、今あげた疾患はどこが見るのか、どこに専門医がいるのか、どこに入院施設があるのか、こういった情報をマッピングしておくと、地域の中の連携先が見えていきます。

3)在宅医療における多職種連携

在宅医療を行う上で連携している機関としては、訪問看護ステーションが最も多く、ついで居宅介護支援事業所(ケアマネージャー)、高度な救急医療を提供する拠点病院、薬局が続きます。自分たちは、これらのプレーヤーたちと、どれほど連携できているか、考えてみるといいでしょう。
 
個別にみていくと、訪問看護の実施事業所の数は増加しています。これらの事業者とどう連携していくか、考える必要があります。
 
在宅患者に訪問薬剤管理を行う薬局数も増えています。訪問の服薬指導、またITを使ったオンラインでの服薬指導に取り組む薬局が増えてきています。
 
さらに歯科訪問診療を提供する歯科診療所も増加傾向にあります。自分たちの診療圏において、どの歯科診療所が歯科訪問診療をやっているのか、そのような情報を持っておくことができると、連携を強めていくことができるようになるでしょう。

4)在宅医療機関による地域内連携の事例

柏市の事例を紹介します。医師の高齢化やマンパワー不足を解消するため、在宅医療を行う医師たちがグループを形成し、輪番で夜間の在宅医療供給体制を構築した事例です。ここではICTを活用した連携ツールを導入し、情報を共有するようにしています。こうしてみんなで負担を分担し、訪問診療を面で支える取り組みでもあります。
 
福井県坂井市の事例は、在宅医療・介護の多職種連携です。こちらも医療者が疲弊しないように多職種が連携し、ITのツールも活用しながら面で支える、そのような取り組みもあります。
個別の医療機関だけで完結するのは困難ですので、連携をして、面で支える、そういった考え方が必要です。もちろん各医療機関の思惑があり、経営のためには患者の囲い込みをしたりもしますので、簡単にはいかないと思いますが、日本の在宅医療を取り巻く変化を考えると、地域内で連携するということは、今後どうしても考える必要が出てくることではないかと思います。

■オンライン診療 × 在宅医療

このような連携を深めていくためには、オンライン診療がこれから重要になってきます。

1)オンライン診療に関する制度の変遷

オンライン診療に対する馴染みはまだ十分ではないかもしれません。ここで厚労省がオンライン診療をどのように評価してきたか、どのように診療報酬をつけてきたか、おさらいをしてみたいと思います。
 
平成9年頃からオンライン診療に関する局長通知が出始めていますが、平成30年に大きく変化しました。それはオンライン診療の診療料が定められ、オンライン診療に取り組むことで、診療報酬が得られる形になった年です。このように診療報酬がつくことがわかると、様々な事業者が注目するようになります。新規事業者も参入してきました。その後大きく広がったのは、新型コロナウイルスの感染が拡大した時です。この時、厚生労働省は時限措置として、それまで認めていなかった初診でのオンライン診療の実施に対し、診療料を算定できるように診療報酬が改定されています。これは非常に画期的で、大胆な変化です。

2)第四の診療スタイルとしてオンライン診療

医療の場が病院、診療所から生活の場に移動しつつあるなかで、オンライン診療は、まさに外来、入院、在宅に続く、第四の診療スタイルとして注目されています。急性期疾患の病院での診療から、慢性期疾患の生活の場での診療へと診療ニーズが変化していくと、さらにオンライン診療が必要となってきます。
 
オンライン診療には、単にヘルスチェックを行うものから、疾病を抱える人を対象にするものまで、さまざまなグレードがありますが、厚生労働省は、指針も作り、厳しいルールのもとで、質の担保されたオンライン診療が提供できるように整備しています。
 
訪問診療のケース
80歳女性。自立歩行や会話は可能であるが、短期記憶障害や失禁があり、グループホームを利用している。転所後転倒したことをきっかけにADLが低下。訪問診療を開始。認知症Ⅱb、要介護3の方です。
 
38度の発熱、尿の色が濃く、匂いも強い訴えあり。尿路感染症の既往があり、尿検査の必要を伝えましたが、本人の協力を得られず採尿を断念せざるをえませんでした。その日は解熱していたこともあり、経過観察。しかし3日後に再び熱が出て、往診して尿路感染症として治療を開始しています。
 
この事例は、何度も行き来し、なかなかスムーズに治療を始めることができませんでしたが、もっと効率よくできるのではないか、往診で良かったのか、オンライン診療を取り入れるべきであったのか、尿検査を実際に行うのではなく、尿路感染検査アプリなどが使えたのではないか、色々と考えさせられる症例です。
 
医療は有限であり、時間も有限です。在宅診療を推進するなかで、このオンライン診療を取り入れることは、限られた資源を有効に活用する有用なツールではないか、そのように考えています。
 
これから在宅医療に取り組む方々には、ぜひ日本のオンライン診療がどのようなルールで実施されているのか、今後どのようになっていくのかについて、注視していただきたいです。2021年11月に改定された、オンライン診療の適切な実施に関する指針が出ています。厚生労働省のホームページから無料でダウンロードできますので、ぜひ内容をよく確認して下さい。何をすれば良いのか、何をしてはいけないのか、詳細に書かれていますので、ぜひ参考にして下さい。
 
なおオンライン診療を実施するためには、医師はオンライン診療研修プログラムの受講と試験に合格することが必要です。この合格証は医師免許に紐付けられ、保存されます。

3)今後のオンライン診療で注目されている領域

それで今後、オンライン診療が具体的にどのあたりが伸びていくか、ですが、平成30年の診療報酬改定を見ると、「情報通信機器を用いたモニタリング」が算定されるようになっています。これは心臓ペースメーカ、酸素飽和度などを遠隔からモニタリングしながら遠隔診療することを想定しています。
 
これがその後どの程度診療報酬として算定されたかを見ると、人工呼吸器及び在宅酸素療法の算定回数は人口に応じて増減がみられるものの、遠隔モニタリングの算定は増加しています。
 
そのほかにも、服薬指導もオンラインで行われています。薬剤は宅配メーカーで届けてもらえると、患者さんは自宅にいながら薬も手に入れ、指導も受けられることになります。患者さんにとっては非常にありがたいでしょう。
 
在宅診療の今後について考えるときも、オンライン診療は取り入れるべきでしょう。2018年に在宅医療の重点分野に対応していくための課題が整理されていますが、そのなかに在宅医療においてICTが活用できていない、情報を共有するための通信機器などが整備できていないことが挙げられています。それらの課題を解決するために、7つの柱というものが挙げられており、ICT技術の活用はその7つの柱のひとつになっています。また在宅医療における医療連携モデルの構築に、このICT技術の活用が想定されています。

4)コロナ時代・ポストコロナ時代に対応するオンライン診療

ここにきてコロナ感染症が拡大しました。令和2年、閣議決定で緊急対策としてオンライン診療の大幅な規制緩和がなされました。例えば時限的、特例的措置として初診から電話等でOKとしました。
 
ただし初診での向精神薬の処方は不可とされています。これは麻薬及び向精神薬取締法に指定されている向精神薬であり、バルビツール系やベンゾジアゼピン系に限られています。抗うつ薬や抗精神病薬は向精神薬に含まれていませんので、電話で処方することができます。
 
2020年4月には、治療計画のもとに精神療法を継続的に行い、通院・在宅精神療法を算定していた患者に、電話や情報通信機器を用いた診療をしても147点の算定が可能となりました。
 
電話診療でも初診214点、再診147点の算定が可能です。
 
2021年8月には、自宅療法しているCOVID-19の患者に対してオンライン診療を提供すれば、初診・再診共に250点が算定可能となりました。
 
様々な在宅診療に関するルールが、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って変更され、緩和されました。またCOVID-19後もオンライン診療を恒久化させる方針が、すでに議論されています。
 
オンライン診療及び電話診療を実施した診療科は、内科、小児科がほとんど(共に90%以上を占める)でした。感冒などを含む上気道感染症が圧倒的多数で、うつ、不眠にもオンライン診療は行われてます。今後、これらの診療科では、オンライン診療及び電話診療はあたり前の診療になっていくでしょう。

5)これからの在宅医療xオンライン診療

患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現のためには、医療におけるICTの利用、デジタル化への対応は進めていく必要があります。また、初診を含めたオンライン診療について、患者ニーズを踏まえ、安全と安心を担保した診療体制が、今後ますます導入されていくことになるでしょう。
 
在宅医療におけるオンライン診療の算定状況を令和2年度のデータをもとに調査すると、在宅医療では、まだ全体の5%ほど、訪問看護でも、活用しているのは10%ほどとなっており、医療機関よりは多いがまだ十分に普及しているとは言えません。これは逆に見れば、これからの在宅医療で差別化を図りたいときには、このようなところに取り組むと良いかもしれません。
 
例えばその具体例として、ICTを用いた死亡診断に対する補助があります。2022年の診療報酬改定の際に新設されたものです。訪問看護の報酬として申請できるようになりましたが、これは訪問看護ターミナルケア療養費に加えて、1,500円が加算できるようになっています。おそらく今後、このような取り組みは縮小することはないだろうと思います。
 

■まとめ

最後にまとめます。
 
①在宅患者、在宅に関わる事業所は増加している中で、どのように自分たちの強みを生かしていくか考える必要があります。
②診療報酬、介護報酬、訪問看護報酬にまたがる政策動向を見ておくと、今後の国の方針を見渡すことができます
③地域のなかで連携機関と協力し、対応できる患者を増やす
④ICTと在宅医療は相性が良いことは間違いありません
 
皆さんで協力しあい、需要の変化に対応できる、在宅医療専門職を目指しましょう。

■質問と吉村先生からの回答

Q. これからの在宅医療におけるリハビリ、遠隔リハの役割についてどのようにお考えですか?

A. 在宅医療や遠隔医療におけるリハビリは、とても重要な役割を担っています。すでに訪問リハ、オンラインでのリハに取り組んでいる事業者もあります。自宅の状況に合わせて実施しており、慣れると問題なくリハビリできるようです。感染予防の観点からも、今後広がっていくだろうと思います
課題はどういった方はオンライン、どういった方が対面で行うのが良いかが定まっていないことでしょうか。この辺りの基準などが今後現場で醸成されてくると、政府側の制度設計とも連動しやすくなるであろうと考えています。 

Q. 今後日本では20年後に死亡者数ピークを超え、家で看取ることが増えるとのお話でした。そのような状況に対応する必要性、さらにACP(Advanced Care Planning)の重要性などを、今の若い人たちに伝えていくことが大切だと考えていますが、具体的にどのような対策が取られているでしょうか?

A. 医療提供側の話をすると、在宅で看取る医師の数を増やしたいというのが国の政策。大胆な施策がすでに行われており、地域で働く医師を増やすために、医学部の地域枠を増やしている。現在9,000人ほどいる医学部入学生のうち、2,000人は地域で働くことを約束して入学する地域枠の学生だと言われています。特に在宅で働く医師が足りない郡部で働く医師を増やすために、地域で働く意思を持つ学生の入学者数を増やしています。
受ける側の視点で見ると、学校教育や家庭のなかでの情報提供がもっと必要だと考えています。ACPについては、ちょっと厚労省としては難しいところがあります。生死について話し合うことについて、不謹慎だと指摘を受けることもあり、丁寧なやり方をしないと誤解を招いてしまうので、慎重な対応が必要です。

Q 拠点病院や訪問看護ステーションなど、今後地域医療を支えるプレーヤーが増えることが予想されるなか、個々のプレーヤーが情報共有しながら、地域の医療を面で支えていくためには、まだまだ課題があるのだろうと思います。具体的には、どのような課題があるとお考えでしょうか?
 
A. 地域医療構想という、急性期の病院をどのように統合していくか、ずっと在宅医療の研究テーマとして扱ってきました。これは非常に難しく、うまく行っている地域もあれば、そうでない地域もあります。このご質問内容は、地域包括ケアの範疇で考えることだと思います。うまく行っている地域を見ると、2つポイントがあると考えています。ひとつめのポイントは「情報提供」です。情報提供はICTなどを活用することで効率的にやっている地域はありますが、実はそれだけではなく、アナログな薬手帳に糖尿病連携手帳などの情報を付加して行って、アナログ情報をうまく連携させ共有しているところがあります。また関係者がその情報を閲覧できるようにすることで、必ずしも連携ができていなくても、適切に患者さんを診療することは可能になります。もうひとつは、各医療機関が自分たちだけの利益を主張するのではなく、地域のなかの共同体として一蓮托生で考えられるか、ということです。ひとつの組織だけが利益を独り占めするのではなく、お互いに利害を分け合う、そんな雰囲気を作ることができるか、だと思います。できるだけ地域のなかで考えあい、解決を検討しあうことが必要です。

Q. オンライン診療を進めることができるといいのですが、高齢者はデバイスへの対応が難しいことがあります。良い取り組みがあれば教えてください。
 
A. 現在は電話での診療も認めていますので、まず時間はかかるけど、電話を使うのがいいと思います。オンライン診療は、スマホであれば、最近は説明書なし、直感的に使えるアプリが増えています。またFace timeやLINE通話を使うこともありますが、これらは一回教えてあげたら、結構使えるようになります。ワンプッシュ、ツープッシュでつながると、高齢者への負担も軽くなります。もし使い方をナビゲートできる人が近くにいるとなお良いですね。これらのツールは、高齢者を取り残すためのものではなく、高齢者を内包化できるものです。現場では、高齢者にも十分に対応できている、というのが私の感触です。

Q 在宅医療ではICTの活用が進んでいないという声も聞きます。何がネックになっているのでしょうか?
 
A. 2つあると考えています。まず受給者側はICTを活用したことがないので、利用者本人が対面を希望することがあります。つまり医療サービスの受給者側の要望があるということです。でも実際数回やってみると、対面と同じような安心感、信頼感をもてた、という研究結果もあるので、数回はやってみることではないでしょうか。
もうひとつは医療者側、医師及び看護師の立場として、慣れがない、経験がないということです。ただこれも、昨今の新型コロナで初めてオンライン診療を経験した人が増えたと言われています。今後、この壁は解消されていくかもしれません。

Q. 地域でオンライン診療、オンライン服薬指導に取り組む医療機関を、ホームページ以外で知る方法はあるのか?
 
A. オンライン診療に療取り組んでいる医療機関は、一覧表で公表されています。なかなかアップデートされないかもしれませんが、ウェブサイトから情報を得ることができます。

Q. ICTのようなものは便利なツールですが、まだまだ現場のスタッフには縁遠いものに感じることがあります。現場で普通に使っていくための方法はあるでしょうか?
 
A. 一番使いやすいのは写真です。患者さんの患部や残薬の状況、自宅の状況をデジタル画像で撮っておきます。もちろんセキュリティには配慮が必要ですが、写真を使うことで、迅速かつ的確に情報の共有が可能となります。電話で伝えきれないことも、このようなデジタルデバイスがあることで、クリアに情報を共有することができるようになります。そのほかにも、まだ紙媒体で運用されている医療情報やスケジュールカレンダーなども写真に収めておくことができると、容易に共有することができます。こういったものを使うことが、診療の助けにもなります。その際、自分の携帯を使うのではなく、診療所が持つ業務用のスマホを使うなどの注意事項は当然必要になります。コロナ禍で行った電話診療でも、どうしてもうまくいかない時は携帯で写真を撮って送ってもらっていました。

今後の予定につきましては下記リンクよりご確認ください。
医療職・介護職・福祉職の方であればどなたでもご参加いただけます。


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