生きているという嘘。私という詐欺。

「もっと根本的なところから見直すのだ」

かつて私の家があったはずの
痩せこけて荒れた更地が言う。

そこには新たな家のラインなんかが
引いてあるのだけれど、
新居への期待よりも、
はるかに巨大な恐怖が立ち上がる。

生まれ、育ち、暮らしてきた
あの世界は。どこへ行った?

私が、暮らしていたのは、
どこだったのか?
私が、家だと思っていたものは、
何だったのか?

もう、どこにもない。
否、
はじめから何もありはしなかったのか。

嗚呼、
家まで、まやかしであったか!
己がルーツと思っていたのに。
テレビのスタジオを見ては、
張りぼての偽物と馬鹿にしていたけど。
はたして奴らと何の差がある?

そこに在る、と思っていた。
――違う。
そこにあるのはただの大地。
お前が日々踏みつけている道と同じ
そこにいくつもの仕切と布を置くだけで
マイホームとやらになる。

ドアを開けたり、
靴を脱いだり、
窓から外を見たり、
そんなことで騙されている。
思い込み、なのだ。

ああだが、
仕切るだけで、
確かに世界が生まれる。
あらゆる仕切の向こうには、
私のけして踏み入ることのない
無数の世界がある。
それを、我々は、我が家と呼ぶのだ。

私よ、
まだまだ疑わねばならぬものは多いぞ。

この世こそ、あの世なのである。

――三浦雅士『孤独の発明』

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