介護福祉事業所の人事労務戦略室　~次世代リーダーを育てる
連載第45回「スタッフ側の義務の履行がうまくいかない場合」

　今回は義務の履行がされなかった場合、リーダーとしてどのような対応をしていかなければならないかを解説します。使用者側に義務の不履行があった場合は概ね民事訴訟となるため、説明は省略します。
　スタッフが義務を履行しない場合、使用者は一連の手続きを踏む必要があります。これらの手続きは、公正かつ法的に適切な方法で行わなければなりません。義務不履行の追求アプローチは慎重に行う必要があります。

　① 問題の特定と文書化：労働者がどの義務を履行していないのかを具体的に特定します。違反行為を文書化し、証拠を集めます。これには、遅刻や欠勤の記録、業務遂行の不備、指示違反などが含まれます。
　② 労働者との面談：問題を労働者に伝え、その理由や背景を理解します。問題行動の改善に向けた計画を提案し、労働者の意見を聞きます。
　③ 警告と改善の機会：最初は口頭で警告し、改善の機会を与えます。問題が続く場合は、書面による警告を行い、具体的な問題行動と改善が必要な点を明記します。

　③の注意点としては①及び②のプロセスを経ないで警告してはいけません。証拠もなく、本人とも話さずに一方的な警告では、トラブルを悪化させてしまうばかりか事業所側の対応の不備を指摘されてしまう場合があります。問題が拗れて、感情的な争いになりかねません。
　その結果、事業所側から解雇の決定をした場合、法的手続きをとっていないため無効になる可能性が高く、未払い賃金及び遅延損害金請求の対象となってしまいます。裁判になった場合は時間もお金も労力も想像以上にかかるため、一時の感情で判断しないように十分に注意が必要です。

　④ パフォーマンスのモニタリング：労働者の行動や業務の改善を定期的にモニタリングします。定期的にフィードバックを提供し必要に応じて追加の支援やトレーニングを提供します。

　⑤ 懲戒処分の検討：問題が継続する場合、懲戒処分を検討します。降格、減給、最終的には解雇が含まれることがあります。懲戒処分の内容は就業規則に記載している処分が一般的で、就業規則に明記のない処分はできません。解雇やその他懲戒処分の内容を決定する前には、労働法や契約の要件を確認します。実際に懲戒処分を決める前に「弁明の機会の付与」を必ずしてください。

　ここで「弁明の機会」の重要性について詳しく解説します。何か問題が起きたとき、一方的に判断を下すのではなく、関係者が自分の見解や事情を説明できるようにすることで、より公正な処理が可能になります。弁明の機会を与えることで、誤解や誤った情報に基づいた不当な判断を避けることができます。

　関係者に対して、弁明の機会があることを通知します。この通知には、問題の内容、弁明の日時や方法などが含まれるべきです。さらに弁明を行うための適切な環境を提供します。
　これには、プライバシーが保護され、十分な時間が与えられることが含まれます。弁明を行う人の話を注意深く聞き、公平に考慮します。これらのプロセスを経て尚も重大な義務違反の場合、「解雇やむなし」という決定になる場合があります。

　⑥ 解雇の手続き：法的要件に従い、解雇の意向を労働者に通知します。解雇の理由を明確にし、必要に応じて文書で提供します。解雇に関する手続きは、労働基準法や契約に従って行われる必要があります。すべての手続きは、労働法や契約に基づいて行う必要があります。労働者には公正な取扱いが保証されており、不当な差別やハラスメントは許されません。労働者とのコミュニケーションは、明確かつ尊重をもって行う必要があります。

　労働者の義務違反に対処する際は、法的な枠組み内で適切に行動することが重要です。また、問題の早期解決と改善のための支援を提供することも、良好な労働関係の維持に寄与します。