介護福祉事業所の人事労務戦略室　~次世代リーダーを育てる
連載第50回（最終回）「あり続ける事業運営②持続可能な解決策へ」

　今回でいよいよ、最終回となります。近年、持続可能な社会の実現がますます重要視されています。その一環として、SDGs(持続可能な開発目標)とESG(環境、社会、ガバナンス)の概念が注目されています。介護事業所においても、これらの考え方を取り入れることで、組織の持続可能性を高め、社会への貢献を果たすことが求められています。

　SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略で、国連サミットで採択された国際的な目標です。地球上のすべての人々の福祉を改善し、環境破壊を防ぐための広範囲にわたる17の目標と169の具体的なターゲットから成り立ち、2030年までの達成を目指しています。

　持続可能な開発のためには、政府、企業、市民社会、そして個々の人々が協力して行動を起こすことが必要であり、SDGsはその方向性を示しています。また、教育や啓発活動においても重要な役割を果たし、次世代に持続可能な思考を伝えるためのツールとしても用いられています。

　ESGとは、「Environmental, Social, and Governance」の略で、企業が持続可能な経営を行う上で重要とされる要素として、特に投資の分野で注目されています。企業が社会的、環境的責任を果たすことの重要性を強調し、投資家、消費者、従業員などステークホルダーからの期待に応えるための枠組みとして注目されています。持続可能な経営を実現するためには、これらの側面をバランス良く考慮し、統合的なアプローチを取ることが重要です。

　企業の社会的信用を高め、投資リスクを低減し、長期的な企業価値の向上に寄与する手段としても重要視されています。単に「良いことをする」という以上に、企業の経営戦略、リスク管理、ブランド価値などに深く関わる重要な概念となっており、その影響は今後もさらに拡大していくことが予想されます。
　SDGs及びESGの国際的基準に、改めて事業所の経営課題と地域課題をすり合わせ、どの項目に該当するか検討してみてください。一気に目の前の問題・課題が、本来ありたい姿への目標に変わるはずです。SDGsは宣言するだけでなく、リーダー達が感じている課題や問題を解決に向かわせる羅針盤の役割を担っているのです。

　介護福祉事業所のSDGs・ESG経営を実践するためのポイントと実現目標をまとめます。
(日) 経営理念、事業の目的と経営環境に適応した経営戦略を策定しSDGs・ESGを通じて社内外に分かりやすく伝える
(月) 経営戦略と強みに基づいた事業戦略(3年・5年・7年後等の展開)をSDGs・ESGを通じて全従業員が自分の言葉で伝えられる
(火) 事業戦略に基づいた人材戦略(理想とする社員像やキャリアプラン)をSDGs・ESGを通じて具現化してワーク＆従業員エンゲージメントを高める。

　日本人は古くから持続可能な経営をしてきた民族です。「百年企業」と言われるような長い歴史を持つ企業が多く存在します。戦国時代末期から明治時代に活躍した近江商人の教えとして「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」で三方よしとなる考え方があります。地域社会との密接な関係を築いていることも、これらの企業の特徴です。地域文化や経済に貢献し、地域社会と共に成長することを重視しています。従業員の福祉も重視し、長期的なキャリア開発とスキルアップを支援しています。
　これらの特徴が、日本の長寿企業が持続可能な経営を実現するための要因として考えられているようです。文化的な価値観、社会的な関係、経営戦略の組み合わせが長期にわたり存続し繁栄する理由の一部です。

　最後に、介護福祉事業所が直面する人手不足の問題にも、SDGsとESGの枠組みを活用し、持続可能な解決策を見出していくことが求められています。社会的、環境的、経済的な側面を総合的に考慮し、革新を起こし続けることで、私たちは変化の先頭に立ち、次世代のリーダーとしての責任を果たすことが必ずできるはずです。(おわり)