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ボストンで勉強したこと 5

一連の、わたしのボストン日記で、マクロビオティックについて学ぼうとは思わないでくださいね。それなら全部、桜沢如一さんや久司道夫さんの本に正確にくわしく書いてありますし、今もマクロビオティックの後継者たちから日々最新情報が更新され発信されていることでしょう。

わたしがここで書きとめておきたいのは、1980年春から初夏にかけてのボストンの空気感、そこに吹いていた風のにおいのようなもの… 

とりあえず日本で不幸にもインプットされてしまっていたマクロビオティックの人たちは、ちょっと怖い…というイメージは払拭されました。ボストンでは玄米菜食で健康体を手に入れたら、その先どうしたいのかということをそれぞれが真剣に探していたような気がします。自分や家族の健康増進に邁進する人、地元で小さなムーヴメントを起こそうとしている人、マクロビオティックの支部開設やそのリーダーをめざす人、いろいろな人が、その人なりに夢を育てていたのだと思います。

わたしは絵の仕事をしていたので、帰国後は玄米菜食について絵でわかりやすく表現できたらいいなと思っていました。子供たちや主婦層向けに何か 小冊子のようなものでも作ろうかと。

誘われてフリーマーケットに夫と二人で出店したことがありました。夫が なぜか日本から習字のセットを持参してきていて、スタディハウスで欧米人が好きな「和」とか「平和」とか、マニアックな人には「八大龍王」などを和紙に漢字で書いてみせると大受けで「フリマで売ればいいのに」と、おだてられ市販の壁紙を使って掛け軸っぽく仕立てて売ってみたら信じられないことに完売したのです。わたしもその横で、手描きのグリーティングカードを売りましたが、これも完売。マジ?って感じでした。もうねアメリカンドリームの種は、そこここにぼたぼた落ちているイメージで、二人とも芸大出身なので、身近にある材料を使ってそういう工芸品めいたものを細工するのは得意でした。

夫が将来について、どんな構想を描いていたのかは、その時点ではよくわからなかったけれど、わたし自身はその後の人生、マクロビオティックを真面目に極めてゆくというよりは、その世界観に影響を受けつつ、自分の作品に取り入れていけたらいいなと思っていました。王道をゆくのではなく、脇道?道草的な?

久司さんの学校のいいところは、そういう雑多な夢や希望を誰も否定しないで、ある一定方向に持っていこうとはしない寛大なところでした。そういうのって、当たり前のようで、なかなか稀有なことではないでしょうか。

久司さんは、あんなに濃厚なカリスマ性をまといながら、久司さんを慕って世界中から集まってくる人々を支配しようとは、まったく思ってないようでした。近寄りがたさはありつつ、我々のような、どこの馬の骨?的日本人カップルに対しても、いつも暖かく丁寧に接してくれて、今、日記を読み返して、本当にびっくりしたんですけど、何度かご自宅でご飯もいただいてました。若いってすごいな、今のわたしだったら、そういうのほんと無理です。 緊張のあまり手が震えて、お箸もお茶碗も持てないと思います。だからね、若いってすばらしい。久司ハウスで、ちゃっかりご飯いただいて帰れてしまうのが若さなんですよね。

日本をたつ頃、わたしたち夫婦がすごく感動した、精神世界のことが書かれた本があって、それも持って旅をしていたのですが、久司さんにその話をすると、読みたいと言われたので、お貸ししたこともありました。当時の久司さんは多忙をきわめ、本を読む時間なんか、あるのかな?返してくれるのはだいぶ先だろうなと思っていたら、意外とすぐに読まれたみたいで、感想も伝えてくれました。「とてもおもしろい本だけど、一箇所、間違ってるね…」と。

え?どこが?と思いましたけど、なにしろお忙しいかただったので、その後どこが間違っているのかは聞きそびれましたが、わたしの中には、その「一箇所間違ってる」という言葉が刺さっていて、その後いろいろな精神世界の本を読むときのブレーキのようなものになっています。

久司さんって、そういう人でした…って、伝わりにくいかもしれないけど うん…そういう人でした。

上善如水(じょうぜん みずのごとし)という言葉がありますが、久司さんが発する言葉は、わたしには純度の高い水のようでした。しみるけれど、痛みはなくて、すっと入るんです。そして残っているんだかいないんだか、わからないんだけど残っているんです。

それはあなたが信者だからでしょ?と思われるかもしれないですけど、何度も言いますが、わたしはマクロビオティックの信者だったことは、一度も ないのです。なんかイヤだなーという立ち位置からスタートして、ハマりまくっている夫の横を付かず離れず歩いてきたというのが、わたしの一貫したマクロビオティックとの付き合い方です。





 

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