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姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』読書感想

ジェンダーに詳しい上野千鶴子先生が東大の祝辞でも挙げていたもので、2016年の東大生強制わいせつ事件を元にした小説(といいつつかなり事実に忠実)です。
今でこそそういう世界にはいませんが、小学生の時のお受験戦争、中高での男子の立場的強さや俺は頭が良いという傲慢さ、肌で理解する世間からの女性蔑視。
そういうものを思い出しました。

筆者の想像で登場人物像や背景が補完されているとはいえかなりのリアリティ。
この話に対して東大生への偏見だ、という意見もありますが、この本の結末は実際にあった犯罪であり、作者が補完しているのはニュースでは報らされなかった加害者と被害者の人間的厚みや社会の成り立ちについてです。

この話がレイプやわいせつという女性性の搾取よりも、彼女を人として見ていないという虐めの側面が強いところに犯人たちの価値観が歪んでいることが現れています。
つばさの兄が最もまともというのも皮肉なものです。

事件から4年経った2020年になりますが、かつて犯罪を起こした元東大生たちはどうしているのか、被害者の方は穏やかでいられているのか。

この小説が、「こんな時代があったの?信じられない!」というような風に言われる日が1日でも早く来ることと、これ以上こういった悲しく愚かな事がないことを願うばかりです。

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