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■第二章

　誰かに何かを勧められると、たいていの場合、持たざる者はおどけてこう言う。
「でも、お高いんでしょう？」
　一方、富める者は淡々と確認するだけだ。
「お幾ら？」
　買うかどうかを決めるのは唯一自分であると、当たり前に理解しているのだ。彼らは何か卑怯なことをして稼いでいるに違いない。そうでなければあの若さで、一代であんな暮らしができるはずがない。こんな時代なのだから、まともに働いたところで資産を持てるはずかないのだ。

そして彼らが今あのポジションにいるのは、きっと裏で厭らしい接待を毎晩行っているからだろう。実力や才能でいえば自分だってさほど変わらないのだからーーそう思いたがるのは、持たざる者の癖だ。

　この世には健全で幸福な富裕層がいる。生まれたときから成功の条件が揃っている人がいる。下卑た人間が勝手に僻み、言い訳ばかりして自分では何一つ努力せず、世間に責任を擦り付けたがるのだ。そしてヘドロの底で今日も同類で傷を舐め合う、ようでいて同類でもまた互いの陰口をたたき合う。その間、富める者は粛々と己の道を行き、努力し続けているというのに。持たざる者は視野が狭く、その点に気づく能力すら持ちえない。

「お幾らですか？」

　友子が派遣で務めている不動産屋の接客ブースで、若い夫婦が担当社員と一緒に物件案内を見比べている。友子は三人の邪魔にならない位置にコーヒーカップを置く。