人間的魅力と作品

いろいろな作家と話したことがある。
話の凄く上手な作家で周囲の人たちを
笑わせながら豊富な知識を披露する。
この人が書いたものなら面白いに違いない、
そう思って読むとまったくつまらないことがある。
かなり落胆してしまうものだ。
その逆に自分は話し下手だと思い、
無口な作家もいる。
でも、その人の作品を読むとあまりに面白く、
虜になってすべて読んでしまうこともある。

19世紀末に活躍した作家、オスカー・ワイルドは
『ドリアン・グレイの肖像』の中で
ヘンリー卿に次のように言わせている。
「人間として魅力的な作家の作品はつまらない。
偉大な作家は作品にのみ存在していて
人間的にはつまらない」
ああ、そういうこともあるなと、
何人かの作家を思い浮かべたのだが、
これは小説家やコラムニストなど
文章を書く人だけのことだろうか?

音楽家や画家などにも会ったことがあるが、
よく喋る作家はカリスマ性が感じられなく、
その人の作品もよかったように思えない。
寡黙な作家は不思議な魅力が漂い、
作品もなるほどなと思える面白さがあるものだ。
一概にヘンリー卿の言うことが
正しいとは言えないだろうが、
確かにそうだなと思える節もある。
ベートーベンやブラームスはどんな人だったのだろう?
ドラクロワやクールベはどんな人だったのだろう?

オスカー・ワイルドはアイルランドに生まれ、
父は医者だったが、母と共に文才に富んでいた。
ダブリン大学では奨学金で学ぶ優秀学生、
オックスフォード大学では首席で卒業。
ギリシア語に優れ、芸術一般への教養が高く、
当代随一の知識人であった。
詩人、作家、劇作家として活躍し、
『幸福な王子』『サロメ』も代表作だ。
奇抜なスタイルで有名でもあったし、
髪型や風貌は大変魅力的である。

タイムマシンで19世紀末を訪れられるなら、
オスカー・ワイルド本人に会ってみたい。
魅力的な人に思えるが無口か多弁か。
おそらくよく喋り、自分の知識を多くの人に
ひけらかすような作家ではなかっただろうか。
自分をどんな人だと思っていたのか、
それもまた聞いてみたいところである。
どちらにしてもワイルドの作品は面白い。
知識人の一級の話が存在しているからだ。
ワイルドは46歳で死ぬが、もっと長生きして、
さらなる面白い作品を書いて欲しかった。