英国人の患者

心の底から愛した
女性は人妻だった。
その女性は幼馴染みと
結婚していたが、
愛していたとは言えない。
だから彼女も
その男に惹かれた。

第二次世界大戦下、
広大な北アフリカの砂漠で
彼と彼女は出会った。
ひと目で惚れ合ったが、
互いに抑制していた。
しかしなるべくして
閉ざされた鍵が弾け散った。

ベッドを共にし、
一緒に風呂に入る。
「幸せの理由は?」
「あなたがここにいるから」
「不幸せの理由は?」
「あなたがいなくなるから」

二人の恋はやがて
彼女の夫の嫉妬により、
飛行機事故と共に
終わりを迎える。
死んだ女を乗せて
複葉機で旅立つ男。
敵軍に打ち落とされる。

大やけどを負ったが、
一命を取り留める。
ミイラのような彼は
ハンガリー人だったが、
乗っていた複葉機から
英国人の患者と呼ばれた。
「イングリッシュ・ペイシェント」、
悲しく純粋な不倫の物語だった。