『セーヌ左岸の恋』の如く

パリ市内を流れるセーヌ。
大戦後の若者たちを撮った
写真はシャンソンが聞こえる。
エド・ヴァン・デル・エルスケンの
『セーヌ左岸の恋』は
今見ても衝撃の写真集である。

アムステルダムの貧民街に生まれ
パリに赴いた若きエルスケン。
パリジャンとパリジェンヌの
退廃的なアンニュイの魅力は
麻薬のように体に入り込み、
その体臭を写真に発した。

黒と白のきついコントラスト。
たむろし酒を飲み愛しあう。
1枚の写真から物語が始まり
ストーリーが展開される。
小説を読み進めるような
映画を観る如きフォトノベル。

青春は昔のことであっても
今もなお鮮烈な光を放つ。
陰影は濃く風が吹き、
熱い口づけがかわされる。
ジタンの紫煙がカフェに漂い、
エスプレッソの苦みが残る。

エルスケンが撮りだした
フォトノベルのような
写真集を今の世で見たい。
カメラマンに生を撮る魂と
物語を綴る能力があれば。
世界は変革するのだ。