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読書感想『パリ警視庁迷宮捜査班』

"Poulets Grillés”
by Sophie Hénaff
『パリ警視庁迷宮捜査班』
ソフィー・エナフ 著
山本知子・川口明百美 訳

エリート警察官としてのキャリアを築いてきた元射撃オリンピック選手でもあるアンヌ・カペスタンは過剰防衛による容疑者殺害のために6ヶ月の停職となり、夫に離婚され、落ち込んでいたところを呼び出され、問題警官たちを集めて作られた特別捜査班の指揮を命じられる。

与えられたオフィスは古いアパートメント、迷宮入り捜査の書類の山、廃棄品のような備品という嫌がらせに、ベストセラー作家であり人気ドラマ脚本家として大金を稼ぐロジエール、ハンサムな切れ者でありながら同性愛者であるために嫌がらせを受けたルブルトン、彼と組むと必ずパートナーに災いが起きる「死神」トレズはじめ、アル中、ギャンブル中毒、パンチドランカーのために思考力が失われた元凄腕サイバー捜査官など、伝説的な奇人変人の部下たちを従え、カペスタンは自分たちの再起をかけて悪戦苦闘の捜査に挑む。

1年前に読んでいたものの、続編が出て、その前におさらいとして再読。
とにかく各キャラクターが濃く、英語圏ならもっと陰鬱に描かれるであろう「負け犬」っぷりでありながら、それぞれ開き直ったというか、悟っているというか、
「まあこれも人生。その中で楽しめることは楽しもう」
という姿勢が見えるのがフランスだからなのか。
翻訳のせいか、悲劇も喜劇も淡々と書かれており、人によっては合わない可能性も高いのだが(事実、息子は途中でギブアップ)、私はフレッド・ヴァルガス作品などに慣れているせいか、楽しみながら読むことができた。

現代フランスを舞台にした作品を読むと、日本の「上級国民」や学歴社会なんぞたかが知れてるな、と感じるほど、階級や地域格差を感じる。その差を埋めるために、エリート官僚は一度故郷ではない地方自治体のリーダー職につく制度があるのだろうが、それも縁故で楽な地方に行けるとかあるだろうし、こうした社会階層があれば移民との確執も起きやすいだろうなとも思うし、パワハラや忖度も横行しやすいだろう。
そんな中で「変えることのできない自分」を受け入れて生きている登場人物たちは悪人まで含めて愛さずにはいられず、英語圏にありがちな白黒はっきりした痛快さはないが、
「人間て、こうやって今日も生きていくよね」
という優しさを感じて、読み終えるのが寂しくなる作品である。
やっぱりこういう作品出してくれるのはハヤカワである。

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