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愛しき友は何処に

2004年のNHK大河ドラマで放送された「新選組!」。
わが青春の一作品といっても過言ではなかろう。

武士にあこがれる百姓の子であった近藤勇と土方歳三が剣と才覚でいっぱしの武士になりたいという熱い思いと行動、その成れの果てを描いた作品である。
野心を燃やす両青年は仲間と共に尊王攘夷運動へ同調し、壬生浪士組として江戸から京へ向かう。その後、派閥争いや内部分裂と粛清を繰り返し、かの有名な新選組となる。しかし開国にかじを切る時代の波に翻弄され、いずれ瓦解してゆく。

その軌跡の背景として組織内部の人間模様をじっくり見せてくれるのが、「新選組!」なのだ。
新選組で有名な隊士といえば、前述の2人以外に沖田総司や山南敬助、永倉新八、斎藤一、武田観柳斎、藤堂平助、原田左之助、伊東甲子太郎、尾形俊太郎、山崎丞に島田魁…と思いあまって個人的に挙げきれないのだが、とにかく名の知れた人物が多い。
百姓時代のコンプレックスや、剣の道を志したきっかけ、何かをなし遂げたいと思う野心、それらが重なり、友情となり、いつしか同士となる。野心を全うするために手段を択ばぬ者、人の道理に背いてまで勝利を得たくはない者、ただ純粋に新選組が好きな者…隊士の数だけ組織への思いがある。それらが絡み合い、ついには共食いを始める。
本編を食い入るように観ていた少女時代のわたしは当時、その刹那さに胸をかきむしられながら涙していたが、大人になって観ると、まさに純粋な組織たらんとした結果、共食いをはじめ破滅に向かう一種の宗教組織のようにも見え始めた。

その要であったのが、わたしが歴史上の人物で最も愛してやまぬ土方歳三さんである。
歳三の行動理理念はいっぱしの武士になることに加え、唯一無二の親友である新選組局長「近藤勇を必ず大名にしてみせる」という幼き時代の約束であった。
もともと腕に覚えのあるものであれば犯罪者であろうと農民であろうと身分を問わず参加できるという募集で集まった壬生浪士組が基になっている新選組は烏合の衆。より堅牢な集団をつくるために法度を制定し、それに背いたものはすべて切腹という厳しい掟であった。その法度を徹底的に守るため、数々の隊士を切腹や暗殺に追い込んでいく歳三さんはまさに鬼の副長であり、ものすごく美しかった。鬼の面を被る一方で人知れず涙を流す歳三さんはもっと格好良かった。

土方『法度に背いたものは切腹だ』
近藤『総司でもか』
土方『総司でもだ、上に立つものならなおさらだ』
近藤『俺でもか』
土方『あたりまえだろう』
(近藤の不在時に法度に背いた隊士を切腹させた土方に激怒する近藤と土方の一幕)

そんな歳三さんと新選組の思いはむなしく歴史は開国に向かい、新選組は窮地に立たされていく。また一人、そしてまた一人と隊士が戦死し、官軍であったはずの新選組が賊軍になり果てる様は目をそむけたくなる。毎話ごとにタイトルに引用した主題歌がわたしの心臓を容赦なく殴りつけてくる。

愛しき友は何処に
この身は露と消えても
忘れはせぬ熱き想い
「誠」の名に集いし
遠い日を
あの旗に託した
夢を
(作詞:三谷幸喜)
(歌唱:ジョン・建・ヌッツオ)

かの愛しき友は何処にいってしまったのか。

だが彼らの人生は悲劇ではない。局長 近藤勇の最後のシーンは、彼と親友 土方歳三と新選組が幸福であったことを証明している。

われら新選組ファンの涙だけでなく笑顔をひきだしてくれるのが、NHK大河ドラマ「新選組!」なのだ。

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