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樽の中には(2005年06月24日)

2005年06月24日 記

 昨日の続き。「国語の教科書に載っていたお話で一番キョーレツだったのはなにか?」がテーマ(なんか昨日と微妙に違っているが、まぁ、よし)。それで「きれいな思い出」として心に残っている作品が星新一の「花とモグラ」、じゃなくって「花とひみつ」だったわけである。かわいらしい女の子とお花畑を描いた挿絵は、今でもよく覚えている。もっとも昨日の日記で明らかなように、ストーリーおよびタイトルはすっからかんに忘れていたが。では「一番キョーレツ」だった作品は何かというと、こんな話(一部想像)。おそらく中学の教科書に載ってたと思うのだけど……。

 主人公はとあるセメント工場に勤める男。彼はそこでセメントを麻袋につめる仕事をしている。大きな樽の中にセメントが入っていて、それを移し変えてるんだったかなぁ。そのあたりはあいまい。それでいつものように作業していると、そのセメント樽の中に紙片が埋もれていることに気づく。なんだろう? と思って拾い上げてみるとそれは一通の手紙。不思議に思った彼は休み時間にその手紙を読んでみる。女性の筆跡で書かれた手紙には次のようなことが書かれてあった。

 彼女の夫は、主人公と同じようにセメントを扱う工場に勤めていた。夫の仕事はセメントの原料となる石(?)を粉砕するというもの。大きな粉砕機の傍で原料が砕けて粉微塵になるのを管理するのが夫の役目だった。がごがごがごぐしゃんぐしゃん。毎日、その粉砕機は「ハウルの動く城」的な破壊的・破滅的な音を立てて動き、大きな石を粉々にする。ところがある日、その破滅的な粉砕機に夫が巻き込まれてしまう。がごがごがごがご――あっという間に、夫は機械に吸い込まれる。あとから赤い色のセメント粉が出てくる。夫は一瞬にしてセメントになってしまったのだ。そして妻は、夫の体が混じったセメント樽の中に手紙を隠し入れた。それが巡り巡って主人公の元へと届いたというわけだ。

 うろ覚えで書いているので、正確じゃないかもしれないけれど、だいたいこんな話だったと思う。人間の体が砕けてセメントになってしまった、というストーリーがなんともいえず衝撃的だった。これほどまでに直截に「死」を扱っていた点も大きかったのかもしれない。教科書で「死」なんて、あんまし出てこないでしょ。少なくとも僕はこの物語ぐらいしか思い出せない。しかもスプラッタ。教育上いいのか? てな疑問も残る。

 とにかくこの物語のタイトルがずっと気になっていたんだけど、数年前にネット上で発見した。「青空文庫」に収録されています。さて、誰のなんという作品でしょうか? これがわかる人はかなりの文学通。あるいは教科書通?

2024年02月23日 追記

 この日記を書いてしばらくしたのち、この問題作は何かのきっかけで(何かは忘れた)ちょっとだけ話題になった。だから今では、それほど「教科書通」ではなくてもご存じの方は多いと思う。それはともかく、令和の現在でもこの作品は教科書に載っているのだろうか? 気になる。

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