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トラベラーズノート:書写にはまる

『メッセージ トーベ・ヤンソン自選短編集』トーベ・ヤンソン著 久山葉子訳

去年から始めて、今でも続いているのが書写。きっかけは、とある短編を旅先へ持って行きたかったためでした。

それは『メッセージ トーベ・ヤンソン自選短編集』(フィルムアート社)の中に掲載されている【卒業式】という作品。

こちらは、フィンランドの首都ヘルシンキが舞台になっているお話ですが、卒業式を終えたばかりの若者たちがスオメンリンナ島という島へ遊びに出かけるシーンも登場します。

このスオメンリンナ島、ヘルシンキからフェリーで15分ぐらいかな、の場所にある島です。はるか昔はスウェーデンの領地でもありました。要塞がとても有名な素敵な島なのですが、この島に『メッセージ トーベ・ヤンソン自選短集』の翻訳を手掛けた久山葉子さんと一緒に、去年の4月行ったのです。

その時に彼女から、私に是非とも【卒業式】という作品を読んでもらいたい、と言われたのです。そう、4月の時点ではまだ短編集を手に入れていなかったんですね。

そこですぐに取り寄せ、読んでみました。さすが作品を読み込んだ翻訳家さんが言うだけあります。スオメンリンナ島がとても印象的に描写されています。

スオメンリンナ島にある船の到着所

「そうそう、そういえば昔の島の迎賓門(キングスゲート)にスウェーデン国王の言葉が書かれていたわ!」

実際に見たものの描写を物語を通して読んだことより、その場所がさらに特別な所となったのです。それも、書き手と読み手が何十年という時を隔ててのことです。

スウェーデン国王の言葉の一部

嬉しいことに、その4ヶ月後にも同じ場所を訪れることになりました。そしてその旅行の計画をしている時に【卒業式】の存在を思い出したんですよね。そこで「そうだ、あの場所へあの話を持って行こう!」と決めたのです。

でも、本を持って行くのは重いし、本を写真に撮って持っていくのも味がない … そうか、そんなに長いお話でもないし、書き写してみたらどうだろう? そしてそれを持っていくのはなかなかいいんじゃないかな?

それがきっかけで、書写を始めたんです。

短編ですからノート一冊も埋まりません。ので、旅行の後はトーベの他の作品を書写しているノートとなっています。彼女の言葉を、日本語という言語ではありますが、写すことによって読んだ時以上に感じることができたら幸せです。

そしてこれがきっかけとなり、さらなる書写欲が湧いてきました。

一昨日からはこちら。トラベラーズノートのレギュラーサイズの罫線ノートに、日本の作家さんの作品を書写し始めました。手慣らしとして、まずは最近読んだ小説の【あとがき】が印象的だったのでそれを写しました。

昨日からは、夏目漱石の『余と万年筆』を書写しています。それこそ当時は漱石も手書きでしたから、彼が書いた文章をそのまま同じように手で書いてるんですよね。感慨深いです。

日本語だけでなく、英語の書写もします。こちらは書写用ではなく、文房具関係の知識を集めているノートなのですが、【iPadといったタブレットや携帯で文字を書くよりも、紙に書いたほうが効果的で記憶に残りやすい】という、東京大学が発表した研究結果の報告に関する記事です。興味深かったので写してみました。

文字をそのまま写すことによって内容が頭の中に入りやすく感じますし、逆に何も考えたくない時、ただひたすら写していくだけですから、簡単な作業です。これがなかなか良い癒しの時間となっているんですよね。

そしてなにより、身体の一部を使って言葉を感じることができる。

書写。

一生付き合っていくであろう趣味となりました。

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