【BtoBで考える】MAデータを活用したメール配信の分析アプローチを考えた
こんにちは!クロスコムの本田(@HONDAWeb1)です。
今回は、BtoBサービスを前提に、MA(マーケティングオートメーション)データを活用したメール配信の分析アプローチについて考察していきます。
本記事を書くにあたり、安宅和人さんの著書「イシューから始めよ」の分析手法を参考にしました。その内容を踏まえつつ私の考察も交えながら、MAデータを題材に説明します。
1.取得可能なMAデータ
データを分析する目的は、ビジネスの課題解決に役立つ意思決定に確かさを与えることです。意思決定に必要なデータの分析視点については、以下の通り「どんなデータが取得可能か?」「どの切り口でセグメントが可能か?」の2軸でそれぞれの項目をあらかじめ把握することになると考えます。
例えば以下のデータが分析に活用できる項目として考えられます。
A)数値指標
B)セグメント
次章でも説明しますが、「取得した指標数値をどの切り口でセグメントすればいいか?」という掛け算でどんどん分析を行っていくべきかだと考えます。
2.MAデータに対する分析アプローチの手順
では、ここからデータ分析のアプローチ手順について考察していきます。今回は、上図フローのオレンジ色フェーズに焦点を当てて考察したいので、それ以外のフェーズは割愛させてください。
また、本項で説明する分析アプローチは、現状本質的な課題がどれなのかまだ分かっていないフラットな状態を前提としています。本質的な課題を見つけるコツとして、併せて以下記事も参考いただけると幸いです。
①データを探索する
探索とは、未知の事柄を探り調べることを意味します。つまり、ここでいう「データを探索する」は、分析するための前準備として、データに特徴がないかを調べる行動を指します。探索する目的は、次項で説明する筋の良い問い立てに必要な情報をインプットするためです。
その特徴ですが、データの特徴においては大きく「差・変化・規則性」の3カテゴリに分けられると思います。
冒頭でお伝えした通り、データ分析の目的は、ビジネスの課題解決に役立つ意思決定に確かさを与えることです。その課題解決の情報を提供するには、客観的な情報をデータから読み取る必要があります。その読み取る情報から意味のある特徴として、上記3つに着目してみると着想が得られやすいと考えます。
MAデータの例で考えると、配信メールの開封率やコンバージョン率、訴求内容といった変数をまず比較してみることです。それぞれの配信メールで配信対象者が同一であれば、それぞれの配信メール間で差分を表にまとめたり、月別推移で数値変化をビジュアライズして把握してみるなど、いろいろ試してみるといいでしょう。
しかし、データを探索する際は、いくつか注意すべきことがあります。それが以下の通りです。
それぞれの説明は割愛しますが、探索データはこれから行う分析の貴重な情報であり、調理材料になります。その調理材料の品質が悪いと、調理結果の信頼性が欠けてしまい、間違った意思決定へ誘導してしまう恐れもあるので、これらの注意点を意識して探索に取り組みましょう。
②筋の良い問いを立てる
探索でそれぞれのデータの特徴を把握できたところで、これから探索データに対して筋の良い問いを立てる作業に入ります。問いと仮説は依存関係であり、問いの立て方次第で仮説やその後の示唆出しの質も変わってきます。
そもそも、データ分析における「筋の良い問い」とは何か。答えは人それぞれだと思いますが、私は「課題解決に大きな意味をもたらす問い」だと捉えています。なぜなら問いは、ビジネスをより良くするデータ分析の起点になるべきだからです。
筋の良い問いを立てるための方法はいくつかあると思いますが、例えば以下の方法で考えていくことが挙げられます。
イメージを持つために、MAデータを例に考えていきます。
以下の図では、自社がクラウド会計サービスを展開する保有する企業として、保有する企業リストへそれぞれの訴求軸でメール配信を行った結果です。ここでは、時間帯や季節などの外部要因を考慮せず、問いの立て方にフォーカスして説明します。
これは訴求というWHATを切り口で考えた例ですが、みなさんはどのような問いを立てますか?「価格訴求のメールがダントツでコンバージョン数が高いけど、やっぱり安けりゃみんな買うのか?」と考えると思います。
しかし、もしみなさんが、マーケティング戦略の設計上、情緒性が最も購買決定要因になると仮説していたら、「なぜ情緒性の訴求は、コンバージョンにあまり至らないのか?」と問いを立てると思います。
この問いに対して仮説を立てようと考えるも、今の手持ちの情報だけでは「なぜ配信対象者10,000人は情緒性訴求でコンバージョンに至らないのか?」という大きな問いに、ざっくりした仮説しか出せそうにありません。そこで、具体的な仮説を出すために、問いを分解していきましょう。
例えば「配信対象者10,000人」ですが、企業情報として、業種や従業員規模、獲得経路や担当部署など、いくつかの項目に基づきセグメントできます。もしメインターゲットが、100人規模でコンサルティング事業の設定であれば、業種もしくは従業員規模でセグメントみると良いでしょう。
例えば上図の通りです。それぞれの業種でサンプルサイズ(配信対象者数)が異なるので有意差判定は本来必要ですが、今回は切り口による分解作業の概要を理解してもらうための説明例なので、ここではサンプルサイズを一旦無視してください。
業種別でもコンバージョン数に偏りがありますよね。メインターゲットだったコンサルティング業の数値も、この中では成果が悪い業種として分類できそうです。
どうでしょうか。先ほどの「なぜ配信対象者10,000人は情緒性訴求でコンバージョンに至らないのか?」という問いから、より具体的な問いへと深化させることができそうですよね。
例えば「なぜコンサルティング業は、他の業種より情緒性訴求でコンバージョン数が低いのか?」や、「クリック率・開封率ともにコンサルティング業が最も低いのはなぜか?」といった問いが考えられそうです
このように、問いをより深化させるには、数値をさらに分解することが必要ですが、ツールシステムの設計上分解できるレベルはおおよそ決まっていますので、その分解レベルを基準に仮説を立てる作業を行っていきます。
③問いに対する仮説を立てる
いくつかのセグメント項目をもとにデータを分解して問いを立てました。今度は、その問いに対する仮説を立てていきます。
仮説とは「問いに対するもっともらしい仮の答え」なので、何度も仮説検証をして筋の良い仮説へと昇華させていく必要があります。また、筋の良い仮説の定義ですが、以下3つの条件が揃っていることだと考えます。
仮説を立てる目的は、意思決定に確かさを与えるためです。その仮説が検証できなければ、仮説はずっと「最もらしい仮の答え」のままですし、筋の良い問いに答えなければなりません。
ここでもMAデータで考えていきます。先ほどコンサルティング業のセグメントグループでは情緒性訴求における配信メールの成果が悪いという結果がありました。そのファクトに対して、なぜコンサルティング業は、他の業種より情緒性訴求でコンバージョン数が低いのか?という問いを立てたとします。
では、この問いに対してどんな仮説を立てるべきでしょうか?例えば、以下の仮説を立てることができると考えます。
この解像度の仮説の質はどうでしょうか?Aでいうと、別の訴求軸の成果を分析して確認できますし、Bですと、競合サービス調査で自社の訴求力を見直すことで、次回施策の検証で実証できそうです。また、意味のある示唆出しも期待できそうで、少しは筋が良さそうではないでしょうか..?
このように仮説の解像度を上げると、具体的にどう検証すれば実証できるか?が明確になり、データを分析する意味が持てるようになります。
ちなみに、仮説を明確に言語化する上で、安宅和人さんは以下の注意点を挙げています。
詳細説明は著書へお任せしますが、これらの注意点を押さえながら言語化することで、ムダな作業を大きく減らす重要な作業につながると主張されています。ぜひ注意点を意識して仮説を出していきましょう。
④仮説が正しいか分析する
仮説を立てたところで、最後に仮説を検証するための分析フェーズです。もし検証に必要なデータが準備できているのであればそのデータで分析を行い、準備できていなければ、次回施策で検証するための計画を立てます。
分析する手法としては、複数のセグメント項目にて数値集計するクロス集計以外にもいくつかあります。すべて紹介できませんが、ここでは一部だけお伝えします。
例えば、先ほど立てた仮説である「コンサルティング業界では、データガバナンスの観点からクラウド会計を導入する企業がほとんどいないのではないか?」の検証を、相関分析を用いて考えてみましょう。
例えば、情緒性訴求メールのURLクリック数と、コンバージョン数に相関関係があるかを分析してみることです。これは、データガバナンスの観点から、クラウド会計に対してそもそも検討すらしない企業なら、メールのURLクリック数はおろか開封数も少ないのではないと考えます。
逆に、データガバナンスを考慮しても検討余地がある企業がいれば、URLクリック数が高いとコンバージョン数も比例して高くなるという仮説が経ちます。
実際にはこれらの相関関係は、相関係数(相関の程度を表す数値)を算出することでジャッジできます。もし相関係数が高ければ(正の相関があれば)、情緒性訴求経由でコンバージョン獲得した企業は、サービスを購入する確率も高くなると考えることができそうです。これが相関分析の手法の一例でした。
もしこれらの分析手法や保有している知識でも、仮説を検証できないとなった場合はどうすればいいでしょうか?それは、ネットや文献から1次情報を収集したり、必要な情報を持っている人へヒアリングすることです。
正直、MAデータだけでは検証できない仮説もあります。しかし、ビジネスへの意味あるインパクトが大きい仮説だった場合は、そのまま放置せずに他の手法を用いて検証することを優先した方が良いと考えます。
⑤分析結果から示唆を出す
仮説を検証できたら、質の高い意思決定を行うための示唆出しを最後に行います。示唆の意味は以下に定義されていますが、データ分析における文脈においては若干表現が異なると私は考えます。
例えば先ほどの仮説「コンサルティング業界では、データガバナンスの観点からクラウド会計を導入する企業がほとんどいないのではないか?」が分析結果から実証できたとします。となれば、ここから得られる示唆としていくつか挙げられますが、例えば以下はどうでしょうか。
Aは消極的、Bは積極的それぞれのスタンスを取っていますが、細かいデータ分析の結果次第では、どちらのスタンスを取るかで、意思決定も大きく変わってくることが想像できるのではないでしょうか。
このように、ビジネスの意思決定に関わるレベルにまで示唆を具体的に出せると、データ分析から有用な示唆が得られたとして意味のあるデータ分析だったことが実証できると思います。
この示唆出しの後は、意思決定を行う前にステークホルダーへ正しく伝えるレポーティング作業が入りますが、このような手順で分析を進めていくといいのではないでしょうか。
3.都合のよい分析結果ばかりじゃない
以上が、BtoB MAデータを活用したメール配信の分析アプローチについての考察でした。データ分析のアプローチにはいくつか型がありますが、問いと仮説の立て方については、その人の着想次第で精度がかなり変わってくると考えます。
特に実務では、分析データの蓄積ができていない、ダーティーデータが多く分析できる状態ではない、仮説を検証するデータが準備できない、など不都合のケースもぜんぜん起こります(僕だけでしょうか…..?)。
そんな時は、この名言をよく自分に言い聞かせて、データ分析に対する苦痛を和らげています。。
検証結果がどうであれ、まずはデータに対してこれらの場数を増やして精度を上げていくことを心がけていきたいですね。
ということで、最後に本記事で伝えたいことをおさらいして終了します。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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