見出し画像

雨降りの金曜の夜

閉店間際の酒屋に駆け込んでまたワインを買う。入り口は鉄格子のドアで遮られロックがかかっている。ブザーを鳴らすと今行くよとインド人の店員が開けてくれる。ものを選ぶのが遅い俺は大した舌を持っていないからなんとなくパッケージの良さそうなPinot Grisを選ぶ。酔えればなんでもいいのだ。お世話になったタイ人のお母さんがPinot Grisしか飲まなかったからいつもそれを選ぶ。バッグはいるかと聞かれ、裸のままの酒を持って夜道を歩きたくなかったから、欲しいと答える。いい夜をと挨拶を交わした彼はいいやつそうだった。この国にはたくさんのインド人が移住してきている。前に住んでいた家もインド人夫妻とそのお母さんが住んでいてよく牛肉を焼く俺は料理がしづらくてストレスを感じていた。店を出てホステルに戻る。金曜の夜だから皆飲み歩いているのだろう、街の活気を感じながら雨で濡れた道を歩く。コップを取りに一度部屋に戻りまた降りようと待っていたエレベーターが着くと中から大柄の黒人が降りてくる。やあと声を交わしたあと彼は苦しそうに咳き込みながら洗面所にもたれかかる。きっと飲みすぎたのだろう。ここまでバルコニーで、光るスカイタワーを見ながら書いていたが小雨が降り出したので部屋に戻る。酒を買うために少し外を歩いただけだがやはり部屋にこもっているよりよっぽどいい。滞留した部屋の空気の中にいても自分の中に何の動きも生まれない。飲みのペースが早すぎてもうワインは半分しか残っていない。アルコールにもだいぶ慣れてきて一晩で一本は飲んでしまうようになった。大麻もきっと簡単に手に入るだろうが今は酒がちょうどいい。ハイになると無防備になりすぎてしまう。玉を食うと少し他人に不快感を与えただけで気になってしまうほどナイーブな性格なのだ。よくここまで生きてきたなと思う。巷では陰キャとかadhdだとか繊細だとかいうけれどまともに社会生活を送れないほどの人間は逆に処世術を自ら学ばねばならず、かえって人よりも円滑にコミュニケーションが取れたりする。というとそんなことはないと繊細な人たちが言いそうだ。酒を飲むと頻尿が酷い。

東京に4、5年住んでいた俺はもう都会は嫌だと心底思っていたが、今この都市にいて居心地がいい。この前に住んでいた田舎町では毎日自分の肌が黄色いと自覚させられることが起きて疲れきっていた。レイシストは全員バカだから気にしないのが一番だが全てをさらっとトイレを流すように受け流せるわけでもない。立てた中指の分、内側にモヤモヤが残るのだ。ここに書くべきじゃないだろうが、個人的な経験ではブラックからの差別が一番直接的で衝撃を受けた。あなたがここからいなくなって嬉しいだとか自分の国に帰れだとかは優しい方で、お前も移民だろうと笑けてくるが、一番は面と向かってお前を殺したいと言われたことだろう。それは山の中で行われたシークレットパーティでの出来事で確かにアジア人というだけで目立っていたであろう俺のところにやってきたムキムキの黒人が見下ろしながら俺にそう言ったのだ。1時間ほど会場の隅で悩んだ後、俺は何も悪くないとそいつの真後ろで何かあれば殺してやると殺気を込めて踊っていたらそいつはいつの間にか帰って行った。ここまで書いてなんとつまらない話だろうと思うけれどきっと誰かにどこかに吐き出したかったのだ。憎しみは憎しみしか生まない、というのは綺麗事みたいで嫌いだがきっと本当のことだ。海外で差別を受けた人が日本は最高の国だと帰国してから主張しだすのを見る。確かに日本は最高の国だと今は思える。しかしどの国だって最高なのだ。そしてどの国の政府もクソッタレなのだ。
酔いすぎたのかなんなのか説教じみたつまらないことを書いてしまう。本当は久しぶりにクラブに踊りに行こうとしていたのに、チケットを取り逃がしてしまった。ダメもとで入れるか試しに行ってみよう。踊っていると本当に何もない存在になれるから、好きだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?