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102 心を鎮めることはできるか?

攻撃的になりやすい

 大きな衝撃、ガックリくるような事態、悲惨なニュース。私たちの周囲には、そんないわば飛び道具が無数にあって、自分の身は自分で守るしかない。自分の身、そして自分の心の問題である。
 以前から、『トラウマにふれる』(宮地尚子著)を読んでいるのだが、3章「傷に寄り添う」には、「災厄のもたらす身体──被災地から性産業へ」の項目がある。そこには、「震災後、DV(ドメスティック・バイオレンス)や性暴力が増える可能性」について記されていた。
 そこでネットで調べてみると、こういう記事にいきついた。
 災害時の性被害 東日本大震災で見えてきた被災地の声(NHK)
 この記事で、さらりと「24時間の無料電話相談「よりそいホットライン」では、2013年から2018年の5年間に女性専用ラインに寄せられた36万件余りの相談について内容を分析しました。その結果、被災3県(岩手、宮城、福島)からの相談の5割以上が、性暴力被害に関する内容であることが明らかになりました。」と書かれていた。
 デマではないかと真っ先に非難されて、地域の恥として隠蔽しようとする可能性がとても強いため、大きな災害が起きたときも「日本人は暴れない」と海外でも信じられている。だが、本当だろうか?
 実際には、ただ闇に葬られているだけなのではないか?
 どんな人でも、外部からの刺激(地震や自然災害も含まれる)によって、自分が無力であると感じることは自然なことだ。問題はそのあとだ。無力な自分に浸りきって無気力になって、なにもする気になれなくなる、あるいは終わりにしてしまおうと思うこともあるだろう。
 その一方、確かに自分は無力で弱いが、自分よりもっと無力で弱い者がそこにいるじゃないか、あいつはなんだ、と暴力がそっちへ向けられる可能性もある。とても怖いことだが、あり得ることだ。

通常のリラックス手法が取れない

 災害時のように、たとえば、思い切り誰かに弱音を吐くこともできず、ゆっくり風呂に入ることもできない、温かい飲み物さえも満足に得られない、周囲に自分の言葉を聞いてくれるような余裕のある者がいない、下手に話しかけると度鳴り返される、といった状況では、通常よく言われるような、リラックス手法は取れない。ますますイライラが高まってしまうだろう。
 非常時こそ、心のケアが重要になってくるのだが、世界各地にたくさんのおカネをばら撒けるぐらいの地位にいるはずのこの日本においても、災害時のケアについては後手後手だ。そもそも、ペットと一緒に避難することさえも、ようやく叫ばれているものの、公的にしっかりとサポートしてくれる段階にあるとは言えない。
 なぜか、身内に厳しいのがこの国の姿勢である。「我慢しろ」とか「黙ってやれ」といった高圧的な態度こそ、いまの時代には見られなくなっているだろうが、それでも、被災者に快適なインフラを提供できるところまでは至っていない。能登半島地震においても、道路や鉄道といった交通手段の確保が難しいことで、物資を必要な地域に適時送り込むことについては、なかなか簡単には進んでいない。
 今後、さらに大きく広範囲に被害が及ぶような地震が起きたときに、どの程度の対応ができるのか。私たちは不安を抱えて生きることになる。

なにを備えればいいのだろう

 では、私たちはなにを備えればいいのだろう。
 地震や自然災害が起こるたびに、非常用に必要な物資のリストが報道され、「これは役に立つ」「これは必携」といった物のリストは存在し、あとは自分たちでできる範囲でそれを用意しておくしかない。
 ただ、肝心の心の部分については、特になにかを用意しろという話は出て来ていない。
 これだけの地震国である日本では、心のケアについても、独自の仕組みがあっていいはずで、それを備えておく必要があるはずだ。
 事後に相談窓口を開設するだけでは防げないので、いまからでもやれることがあれば、各自で備えておくことも大切だろうけど、それがなにかを教えてくれる人はいまのところ見当たらない。
 たとえば厚労省関係のサイトには、こんな記事がある。
 災害とこころの健康
 しかし、これを読んだとして、ソーシャルサポートをどう受ければいいのかは実はまったくわからない。具体性が乏しいのだ。ソーシャルサポートについては、心理学関係の「お勉強」としては情報がいっぱいあるけれど、実際に私たちが利用できることについては、よくわからないのである。
 これは、著名人の自殺ニュースのあとに、取ってつけたように電話窓口を紹介して終わらせているわけだが、そこに電話することでなにが起こるのかまでは、よくわからない。110番に電話すれば警察につながり、119番に電話すれば消防・救急につながることは知っていても、心の問題に関する窓口に電話すると、どうなるのか、なにが起こるのかは、よくわからないのである。(と、ここでこの文章は唐突に終わるのである)。
 

 

 
 


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