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173 またしても訃報に驚く

みんながみんな健康ではないけども

 自分のように、健康状態を過剰に気にしている人間もいる一方、私などより遥かに重い病魔に襲われていながらも、私などより遥かにアグレッシブに活動している人たちがいる。大したものである。爪の垢を煎じて飲むべきだろう。だが、爪の垢は食品衛生法に引っかかるだろうから、やはり飲むべきではないだろう。
 大病をしても、そこから復活し、元気に活躍しているAさんから久しぶりにメッセージが届いた。
「治験に参加しないか?」
 治験の対象となるには、チェックリストの項目である程度のスコアを獲得しなければならない。該当すれば2泊3日の合宿形式の治験に招待されていくばくかのおカネを頂くことができる。
 ところが、私はスコアにまったく足りなかった。
「おかしいな。高校生ぐらいからタバコ吸っていたら百パーセント、引っかかるはずなんだけどな」
 誰と間違えているのかわからないが、それは私ではない。私は大学時代にジャズ関連の同好会に参加していた時期があって、先輩とパチンコに行き、タバコを獲得して吸い始めるのだが、しばらくして自分にパチンコの才能がないことに気付き、つまりまったくタバコを獲得できなくなり、そうなると普通に購入することになるのが妙に悔しかった。しかも、タバコを忘れる。ライターを忘れる。そもそもどっちもよく無くす。そのうち、面倒臭くなってタバコを吸うことそのものをやめてしまう。
 タバコを吸ったからって、演奏が上達することはない。吸っても吸わなくても同じだ。タバコの害を考えれば、吸わない方がいいはずである。
「ま、治験はともかく、今度、飲みに行こう」と言われて、それは了承する。だいぶ先の日程を告げてくる。締め切りを抱えている人ならではのスケジュール感である。Aさんは現役バリバリなのである。

娘さんがFBに訃報を投じる

 別の仕事で一緒にやっていたBさんの名をFBで久しぶりに見たと思ったら、娘さんの投稿で「父は亡くなりました」と告げていた。
 二度見、三度見し、なおかつコメント欄も見て、共通の知り合いがコメントしているのを発見し、本当なのだと納得する。
 Bさんは私より年上だった。それでも一時的に私の部下みたいなポジションになって、やがてそれは具合が悪いので棲み分けするようにした。間もなく、私はその仕事から離れてしまうけれど、彼は残り続け、ちょうどDTP化の時期だったので(そうなんです、すごく昔の話)、彼を中心としてDTP化が推進されたと聞いている。
 ところが、その後、会社とケンカ別れしたみたいで、私の後任みたいな感じで来たやつと一緒に部下も引きつれて退社し、みんなで会社を作った。
 とんでもない話だけど、すでに当事者ではない私には、なんの関わりもないことである(と、爪楊枝をくわえる)。それきりになってもおかしくなかったのだが、世界は狭いのである。
 私はフリーランスになり、Bさんもフリーランスになった。一緒に辞めた人たちで作った会社は空中分解したらしい。Bさんが働き方についての書籍を刊行したことを知って、講演を見に行ったのがきっかけで、再び会うようになった。
「大変だったんだよ、あんたが辞めてから」と言われてしまったのだが、それはもう、本当に私には、なんの関わりもないことである(と、爪楊枝をくわえる)。
 彼は実家でやっていた仕事を継ぐことになったはずで、その後、何度か会うたびに、「名ばかり社長だけど大変だ」と言っていた。
 そんな彼の最愛の奥さんが急逝してしまう。これで彼の人生はさらに大きく動いていき、最終的には引き継いだ会社を清算し、東京からやや距離のある郊外へ引っ越してしまった。すると、今度は彼自身が大きな病で倒れる。
 共通の知人から聞かされて、見舞いに行ったり、退院祝いをしたり。
 そうした関係もしだいに疎遠になっていく。彼は元気そうでSNSに大河ドラマの感想などを時々つぶやいていた。
「自伝的な小説を書いたんだけど、自費出版しようかな」
 やめておけ、と言いたいけれど、そこまで言う権利は私にはない。自費出版はなんだかんだおカネのかかる世界。そんなことは知っているはずのBさんが言うのだから、止めてもしょうがない。
「できるだけ短い話にしてくれ」と頼んだだけだった。
 正直、人の書いたものを読むとき、短ければ短いほどいい。ところが、人生を賭けて書く人の多くが、大長編を書いてしまうのである。その結果、こちらは読めなくなってしまう。私も最後には誰にも読めないぐらい長いやつを書いて終わらせよう。
 いくばくかの費用をかけて電子出版をしたらしいのだが、私はその作品は読んでいない。長いんだもの。
 Bさんはとても顔が広いこともあって、いまも共通の知人もいる状態だったのだが、入院したり手術していたことも知らなかった。それがいきなりの訃報だから、もしかすると当人もこれで終わりになるとは思わなかったのかもしれない。「もう一度、退院祝いをしてみんなを驚かせてやろう」ぐらいに思っていた可能性は高い。
 このところ、有名人でも突然亡くなるケースが散見される。コロナウィルス、あるいはそのワクチンと関係があるんじゃないかと思いたくなる。免疫力は低下しているのかもしれない。気をつけようのないことながら、気をつけたい。

色をつけてみた



 
 
 

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