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ブラック・ジャックを格好いいとは思うものの、なぜか信用できないと踏んでいる話。

手塚治虫さんのマンガ『ブラック・ジャック』の主人公、ブラック・ジャックこと間黒男氏について、いろいろ思うところがあるので、書きます。

不幸な過去を負った天才外科医(ただし無免許医)が、数々の難問を解決していく話ですが、君の専門は何やねん? というくらい、彼の手術範囲は多岐にわたり、人間のみならず動物、機械、果ては宇宙人まで、治療してしまいます。
素人だって、おいおい、とツッコミを入れずにはいられない、無敵の万能さ。
だからこそ、彼の人間性の描きが気になるし、読めば読むほど「信用できない男」に見えるのです。

以下、ブラック・ジャックこと間黒男氏をこき下ろす記事となります。
ブラック・ジャックを神聖化されている方は、ご注意ください。
不快になられても、責任はとれませんので、悪しからずご了承ください。


結局、自分を頂点とした権威体制をつくりたかったのでは?

ブラック・ジャックの特徴としてまず思い浮かぶのが、法外な治療費の要求です。
まあ、現代の感覚だと、自由診療として計算したらリーズナブルな価格では? とも思いますが。
作中で、ブラック・ジャックは「命をかけて手術をしているのだから、それぐらいの金を出すべき」と主張しています。

でも。
ここで引っかかるんですよね。

医者だけが命をかけて仕事をしているわけではなくて、どの職業の人も等しく、命をかけて仕事をしているのでは?

作中によく出てくる肉体労働者(建設業とか)の方々はもちろん、販売職やオフィスワーカーだって、その人なりの人生を、その瞬間はかけて、仕事をしているわけでしょう?
職業に貴賤なし。
そこを忘れて、自分の仕事は特別だ! みたいに主張されても、なんかね。

まして診療報酬というやつは、戦後の日本では国民皆保険やらなんやらで規定されていて。
医療が一部の金持ちの独占サービスにならないよう、どの国民も等しく医療を受けられるよう、民主主義的な政策がとられているわけですよ。

戦後の日本が貧しかったから。
権威主義体制によって、国が破滅したから。

なのに、ブラック・ジャックはその民主化に逆行するように、法外な治療費を請求してはばからない医者であり続けます。

勿論それだけでなく、時には無償で治療するような人情味も見せ、そのギャップだったりアンバランスさが魅力だったりもするんですが。

ずるいよね。
つまりは、間黒男氏の気分次第で、治療費も変わるし、手術してもらえるか否かも変わるってことじゃん。

ブラック・ジャック氏は、およそ手術と名の付く医療行為でできないものがないくらい、有能で万能な医者として描かれています。
どんな難病も、傷害も、彼であれば直せる、彼しか直せない、そういう立ち位置です。

病気やケガを直してほしい人は、ブラック・ジャックの言葉に従うしかありません。
彼の言葉に従い、彼の顔色を窺い、彼の機嫌を損ねないように、細心の注意を払うことを、患者とその家族は求められるわけです。

それって、暴君ポジションでは?

組織のしがらみが嫌だから、無免許医で居続けるようなことを言ってますけど、結局は自分が王様のように、患者やその家族を右往左往させたかっただけでは?

彼の求める自由とは、自分を頂点とした権威体制をつくって、自分の気の向くまま手術をして、お金も自分の自由に使いたかった、ということでは?

そのくせ、全部自由診療扱いだから、薬代等にお金は消えて、手元にはさほど残らなかったりして。
結果的にうはうはなのは、医療費の負担をせずに済む日本政府だったりするんですよね。
本来、国が負担すべきところを、患者に負担させてるんだもん。
ブラック・ジャック、国家の犬説まであるな。

だから、どうもこの男が信用できないんです。

女性を「産む存在」としてしか見れない男

そのものズバリ、ブラック・ジャックは子宮摘出した女性を「女性ではなくなった」と認識しています。

生涯唯一愛した女性として登場する如月恵氏に対して、彼女が子宮摘出せざるを得ないときに「君が女性であるうちに言っておくよ」と、愛を告白します。
でも、術後の彼女をもう女性とは見なさないんですよね、この男は。

そのくせ、子宮のない如月恵さんを、女性として好きだという若者が現れたときは、明らかに嫉妬している。
そもそも自分が蒔いた種なのに、恵さんのせいにしたりして。

第一部の最終回でもある「人生という名のSL」でも、ブラック・ジャックの想いの強い登場人物たちが出てくる中に、如月恵さんも出てきます。
この回は、ネタバレしてしまうと夢落ちなんですが、その夢の中で、二人はあらためて決別するわけです。
それも恵さんの方から「自分は今の人生に満足している」と言わせることで、決別するのです。

ああ、ちょっとは罪悪感があったんですかね。
恵さんが不幸な人生を送っていたとしたら、奴はどうするつもりだったんでしょう。

ピノコを「都合のいい存在」として支配していないか?

同様に、ピノコに対しても「自分が都合よく支配できる存在」として、認識しているように思えます。

ピノコは「畸形嚢腫」の回で、双子の片割れとして成長しそこなったからだが双子の姉の中に存在し続けたもの、として登場します。
双子の姉から摘出された、からだの部品でしかなかったものに、ブラック・ジャックがからだの器をつくり、人として生きさせようとする、それがピノコです。

当初はピノコを養子に出そうとしますが、ピノコ本人がブラック・ジャックとの生活を望んで帰ってきてしまったがゆえに、家族としてともに暮らすようになります。

なんですけどね。

ピノコは外見は幼児なのに、姉のからだの中に18年居続けたものだから、大人であることを主張します。
養父であるブラック・ジャックに、熱烈愛のアピールをします。

ちょっと、キモいよ、手塚治虫先生。

ブラック・ジャックもピノコに振り回され続け、でもはっきり拒絶することもなく、のらりくらりとかわしながら、問題の「人生という名のSL」にいきつくわけですね。

ブラック・ジャックの夢の中で、ピノコは子どもの姿ではなく、八頭身美人として登場します。
ブラック・ジャックに釣り合う大人の女性となって、愛を告白するわけですが、ブラック・ジャックは「八頭身にも美人にも興味がない」と突っぱねます。

そりゃそうだ。
外見の美しさを、彼自身がこれまでに幾度も生み出してきた(整形手術してきた)わけですから。
ブラック・ジャックにつくれないものはただ一つ、子宮です。

だからどんなに美人になっても、子宮のないピノコは女性として認識されないわけですよ、ブラック・ジャックから。

ただ、自分を全肯定してくれる家族としてのピノコは、失いたくない。
ピノコを失わないために、
「おまえ、私の奥さんじゃないか」
「それも最高の妻じゃないか」
なんて言ってない? と勘ぐってしまう。

だってやっぱり、人生経験的に大幅に違う相手(幼児)を「私の奥さん」って言う大人ってさ。
それまでの日常でも、何かあっても判断を下すのは全部ブラック・ジャックじゃないかよ。
全然対等な相手じゃないわけさ。(だって養父と養女じゃん)

ブラック・ジャックが主導権を握り、ピノコは異論があっても従うしかない。
そういう関係が、古い権威主義的な夫婦観であったことは、否定しませんけどね。
そういう関係って、結局立場の弱い方が耐えることでしか成立しないんだよ。

間黒男としては、如月恵さん以上の女性はいないと思っていて、だから度々登場する美女キャラクターにもそっけない。それはわかる。
最愛の人を、子宮がないから女じゃないと捨てた男として、「愛する資格がない」のもわかる。

でも、同じ子宮のない存在としてのピノコは、黒男のリベンジのための存在じゃないしな。

ピノコは人工的なからだだから、ブラック・ジャックと縁を切って生きることは、多分、無理。
ピノコのために、ブラック・ジャックが自分の技術を後進に伝え育てようとしない限り、多分、無理。
そして間黒男が人を育てるなんて、多分、無理。
だって奴は自分が一番かわいい男じゃん!

本当にピノコを愛しているなら、年の離れた自分のもとにはおかないんだよ。
自分が先に死んで、ピノコが残されるのがわかってるから。
本当に愛しているなら、自分が死んだ後のピノコのことを考えるべきなんだよ。
助手として自分の手元に置いて、ピノコに自分の手術は自分ひとりでやれと言うのか?

間黒男は自己中心的な古いタイプの男

というふうに見ていくと、結局ブラック・ジャックって自己チューな古いタイプの男じゃん、という点にいきつくんですね。

優しいふりをして、支配したいだけの男。
ごめん。
どんなに格好いい演出をされても、信用できないんだわ、そういう男って。

作品の終盤、自分がやってきた高額診療費請求を省みるくだりもありますが、それでもやめなかったよね、君は。
その場では反省しても、長年のスタイルは変えられない。
ダメな大人やん。

そういうダメ男でも、架空のキャラクターならOKという向きもあるかと思いますが。
架空のキャラクターでも、筋の通ってる人間の方が信用はできるので。

てか、物語が最後まで決着がついて、ブラック・ジャックがこれまでやってきたことの報いを受けて、ひとり寂しく死んでいく……とかいうラストがあるのなら、信用云々は言わないんですよ。
結局、こいつは生き逃げしてるんじゃないかと、そんなふうに見えるので。

などと悪態をつきつつ、アニメのブラック・ジャックはやっぱり格好いいし、昭和の24時間テレビの手塚アニメは、ブラック・ジャックが登場してなんぼやんとも思うので、嫌いになれないんですよ、この男。
距離を取りつつ、楽しんでいきたいと思います。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

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