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【ココロコラム】いつも「本日のおすすめ」を食べていませんか?

今回はまず、昼食の選択について考えてみましょう。みなさんの会社や学校の周りには、無数の飲食店があるでしょう。しかし、毎日違う店に行く人はあまりいません。ほとんどの人は、いくつか気に入った店に何回も通うものです。もちろん常連になることでメリットもあるのでしょうが、なんとなく飽きているのに、まだ同じ店に惰性で通い続けるようなタイプの人は、ちょっと注意が必要なように思えます。

選択すること自体が面倒くさくなっている恐れがあるからです。昼食ぐらいなら影響も小さいですが、選ぶこと自体の労力をうっとうしく思っているようだと、黄色信号点滅です。

何かを選ぶことというのは、心理的にはけっこうなストレスがかかります。そのストレスを回避しようとして、防衛的に使う戦略が、ある決まったやり方を惰性でやり続ける。あるいは選択自体を人に任せるという戦略です。これだと、自分で選ぶ義務感からは解放されます。また、ある種の安心感も得られます。洋服を選ぶのが面倒だから、いつも同じ店で買う。メニューを何にしていいかわからないから、いつも「本日のおすすめ」を食べる。変化はないけれども安定はしている。

こうするとたしかに楽なのですが、選択する機会で自分の主体性を発揮しないことが増えていくと、他の選択肢がどんどん見えなくなってしまうのです。これは、人生においてかなり損です。

若い人の場合、こういうあり方がふと疑問に感じるのは就職の時でしょう。何年も前から「この業界に入ってこういう仕事をする」と目指し、それを実現する人はかなりまれです。たいてい、自分の思いもしない業界の職種についたり、予想外の勤務地に転勤したりです。必ずしも「いい会社」に入れるとも限りません。それに対して「スリルがあって面白い」と感じるか「自分はこんなはずじゃなかった」と後悔するかは、心理的に大きな差があります。

ある程度、人生はその場の運不運に左右され、自分の努力ではどうにもならない方向に流されることがあります。そのとき、新しい方向にうまく適応できるかどうかは、日頃から選択肢を広く考えていることが大切です。いつも決まったメニューを食べ、決まった店で買い物をしていると、いつしか人生に対する考え方もワンパターンになりがちです。いい会社に入り、いい配偶者を見つけて、いいマンションを買うのが人生の成功のように考えてしまいます。

それだと、目標をうまく達成できればいいですが、そうならないことのほうが多いものです。選択を回避している人は、ある決まった道筋をたどるのは得意ですが、一度そこから外れるともろい。環境の変化や、自分の思い通りにならないことに対して非常に弱くなってしまいます。

特に保守的な人ほど、こういう選択自体を回避する傾向にあると思います。これは、新しいものへの適応力という観点からは、かなり損です。

一番手近な解決策は、自分の可能性をいろいろな角度から見つめ、失敗を恐れず自分の意見を言ってみることだと思います。本サイト読者にはかっこうの手段があります。特にこの十年、SNSなどで、思わぬ人間関係が持てる機会が増えました。それは、取りも直さず自分の選択肢や可能性が広がっていることでもあるのです。ふだん読んでいるだけのユーザーの方も、思い切ってnoteに投稿してみてはいかがでしょうか? そこから、新たな発見があるかもしれませんよ。

(精神科医・西村鋭介)

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