【ココロコラム】みんなが平均より上の能力

人間は、社会に身をおき、周囲の人たちとの人間関係の中で、自分の特徴をつかんでいきます。その中で「これは優れているな」という、優越感や自信を持った能力が生まれ、また「ちょっとこれはダメだなあ」と感じる、劣等感を持つ特性も出てきます。誰しも優越感やプライドと、劣等感やコンプレックスを合わせ持っています。

ところが、ここでひとつ興味深い傾向があります。外からわかる特徴、例えばお金持ちであるとか、美貌が優れているといった特質に関しては、全員が優越感を持っているわけではありません。ところが、内面になると話ががらりと変わってきます。自分の内面は、他人からは見えませんし、他人の内面もなかなか外からはわかりません。どうしても、自分をひいき目に見てしまい、内面的特質に自信を持ちやすいのです。

例として、ダニングという心理学者の研究があります。この研究によると、人とうまくやっていく能力については、85%以上の人が平均以上と思っています。ほとんどの人が、自分が他人とうまくやっている能力について、平均より上だと思っているのです。さらにいうと、この能力に関しては、上位1%に入っていると思う人が25%もいます。上位1%は100人に1人ですから、ほぼ、自分の周りでは一番だということです。4分の1もの人が、自分は一番他人とうまくやっていく能力があると思っているということです。かなりの人が、他人とうまくやっていく能力について、自分を過大評価しているということになります。

他に、「かなりの人が平均以上だと思っている能力」にはどのようなものがあるでしょうか。ダニングの研究では「リーダーシップ能力」「感受性の豊かさ」「賢明さ」「しつけのよさ」「理想主義的傾向」などが挙げられています。これらの能力は、7割程度の人が「平均より上」だと思っています。みなさんも思い当たるふしがあるかもしれません。

この調査からわかることは、もし自分の内面に自信がなくて、それが「みんなが平均より上だと思っている能力」についてだとすれば、それは相当自分を過小評価して、弱気に見すぎだということです。他の人は平均以上だと思いがちなことを、自分は平均以下だと思っていると、相当ソンをします。弱気になって押し切られてしまいがちです。多くの人が過大評価している能力なのですから、自分も過大評価するぐらいでちょうどいいはずです。

これは、ダニングの調査項目に限らず、内面一般に言えます。自分の内面に自信がない人もけっこういると思います。が、他の人は内面的特質のかなりの部分について、他人より上だと思っているわけです。根拠がなくてもいいので、ものごとを極力自分の都合よく解釈し、自分の内面には自信を持つようにするほうが、精神衛生上いいといえます。

また、これらの能力について、人を批判するときは相当慎重になったほうがいいともいえます。ほとんどの人が、これらの能力については「人より上」だと思っていて、自信がある。そこを批判されれば、かなり傷つき、むっとします。また、どこを褒めたらいいかわからない人でも、これらの項目を褒めておくと、自信を持っている可能性が高いので、効果的ということにもなります。

内面は過大評価して当たり前なのです。自信がない人はもう少し自分にやさしい考え方をしたほうがいいでしょうし、これらの能力については「ほとんどの人が平均より能力が高い」と思っていることを知っておくと、世渡りでトクをする場面があると思います。

(精神科医・西村鋭介)


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