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主人亡き後も日本に帰らずここで子育てを続けてるわけ

最近
新しい資本主義とか、
ベーシックインカムとか、脱成長とか耳にする機会が多くなりました。
これまで続いてきたシステムが行き詰まり、歪み、それが格差の拡大という形で表面化し、このままではいられない、何とかしなきゃと知識ある方々が警告を発しているのでしょう。

とはいえ日本で暮らすほとんどの人は毎月決まった日に給料が振り込まれ、それなりに暮らしていけてるので、そこまでの危機感は感じていないのかもしれません。

だから今のシステムが支障をきたしてるなんて言われてもピンと来ない方が多いだろうし、変わることにアレルギー反応してしまうのかもしれません。

そして、社会保障が充実してベーシックサービスが行きとどいた国ってよさそうだけど、消費税めっちゃ高いんでしょ。じゃこのままでいんじゃない。
と結論づけられてしまいがちです。

でも、ちょっと視線を変えてみたり、自分の置かれた状況が変わると「あれ?」「このままで大丈夫?」に簡単に遭遇します。

例えば、正社員で働いていた会社をわけあって退職。その後非正規で働き始めるも、ある日自転車で転んで骨折入院。欠勤扱いで大幅に収入が減ってしまい、病院の支払いも、退院後の生活にも困るなんてことになってしまうかもしれない。

日本の非正規雇用はこの30年で倍増し、働く者の4割を占めるまでになってしまったので、多くの人に起こり得るリアルではないでしょうか。

さらに、20~50代の単身者の無貯蓄世帯は4割にものぼるそうなので、昨日まで6割側だったけどある日突然4割側になる危険を常にはらんでいるのが、今の日本社会の構造なのでしょう。

さらに6割側の人でも、いざ親に介護が必要になった時、理想とは程遠いサービスしか提供されず「あれ?」となって、自分の老後まで不安になったりしてるわけです。

世界の幸福度調査で日本は56位でG7中最下位。
子供の幸福度は38か国加盟するOECD諸国で下から2番目だそう。
みんないつもニコニコしていて幸せそうな日本社会だけど、実は幸せ度が低いという現実。

遠い将来のみならず、一年先、半年先の暮らしに確信が持てない。そんな不安が満ち溢れた社会で満足度があがるわけがないですし、そんな社会で子供がハッピーでいるのはそう簡単なことじゃない。

さまざまなデータによって明らかにされる日本の暮らしの実態は決して立派なものじゃないのに、立派な暮らしをしてるような錯覚に麻痺しちゃって、現状維持をのぞむ社会になってしまってるような気がします。

というわけで

イタリアのシチリア島に嫁いで20年
主人が先立った時11歳だった子供を連れて日本に帰らず
どうしてここで子育てを続けているのか?

これを書くことで、
ちょっとでも一緒に
日本を外から見ることができたらいいかなと、
思い切って書いてみることにしました。

どこに住んでいようが父、母、子の三人家族で父親が死んだら、明日からどうするか?考えなければいけません。
子供が就学してて母親がしっかりした収入があって、これまでの暮らしを維持できる状況だったら、父ちゃんなしにはなるものの前の暮らしを続行できるのだろうけど、そう簡単なことではないですよね。

海外に嫁いできた私には、これを機に帰国するという選択肢も浮上したわけで、さてどうするか?よーく考えさせられました。

まずは住まい。
日本に帰るとしたら両親が住む実家にお邪魔できるし、ここには主人が代々受け継いできた家を遺してくれたので、幸い住むところについての問題はクリア。

次に収入。
ここはイタリアの中でも失業率が高く平均所得も低いと言われるシチリア。仕事を得るのは簡単ではない地。
日本に帰れば、何にしろ確実に働けて収入も増えるだろうと思われる。
とはいえ、ここでは
年の差婚ゆえ主人はすでに年金受給者だったので、日本の国民年金くらいの遺族年金をいただけるし、私が住んでるのは観光地なのでお料理教室をしたりしてちょっとした収入は得られる。

いずれにしろ、なんとか暮らしていける目処が立つ状態で、第一に考えたのは子供のこと。

父親を亡くした後も変わらず元気にしてたけど、父親を亡くしただけでも大きな変化なわけだから、それ以上の変化はできることなら与えない方がいいだろう。とはまず思いました。

当時11歳ながらイタリアでは中学1年生が終わったところ。日本に行ったら小学生。これだけでもへこむな。
日本語はちゃんと喋れるし、読み書きもまぁできる方とはいえ、学校教育にすんなり溶け込めるレベルではないから、さらにへこむだろうな。
そして数年後には高校受験…。

日本では収入は増えるとはいえ、朝から晩まで働いて子供と食事をすることもままならなくなって、どうやってへこんだ子供をホロ―できるだろう?ホロ―できず、へこんだまま大きくしちゃうのは残念すぎる。

それに
多様が常態化してる社会では髪が茶色かろうが黄色かろうが、まっすぐだろうが縮れてようが、目の色が黒かろうが青かろうが、一人親だろうが二人親だろうが後ろ指指されることなく生きていけるけど、
同一性が重んじられた社会に、何の罪もないけど、髪の毛も目の色も違ううちの子を放りこんでいいものか。

そうしなくていい選択があるなら、そうしない方がいいんじゃないか。

色々考える中で決定打になったのが、その頃、主人が死に近づくに際してお医者様と接する機会が多かったからだと思うけど、うちの子が「お医者さんになろうかな」と言ったこと。
大学までの学校教育に日本のようにお金がかからないイタリアなら可能だけど、日本ではムリ。しかも日本の医学部受験の大変さを思ったら絶対ムリ。

子供が言ったことだから、今はもう医者になりたいなんて思ってないみたいだけど、今後何を志そうと、経済的に門戸を閉ざさざるおえなくなるところより、より多くの可能性を持っていられるところにいた方がいいに決まってる。

さらに
日本社会の現状を見つめてみました。

日本からいらっしゃる方と島の内部にご一緒すると「ここの人はどんな仕事をしてるんですか?」と聞かれることがよくあります。
「公務員が多いですよ」というのが私の決まった答えです。
私が住んでる地域は観光業従事者も多いですが、内陸部の小さな町では公務員比率がかなり高くなります。
日本の半分の人口しかいないのに市町村は5倍近くあるイタリアなので、小さい町々に役場があって働く人がいる。

以前は、公務員がやたらいっぱいいて無駄遣いが多い国だなーと思っていたのですが、最近は、それがこの国のゆとりにつながってるんだなーと思うようになりました。

((余談ですが、このコロナ禍でも、そこまで社会が疲弊してないのは、ロックダウンになろうが給与は変わらず、変わらぬ消費活動ができる公務員層(と年金受給者層)の存在があったからだろうと思ってます。))

どんだけイタリアの公務員が多いのかと思ってしまいますが、2015年のデータで雇用者中公務員の割合は14%。OECD平均18%のずいぶん下です。
同比率が6%の日本と比べてたから、ずいぶん多いと感じてたのですが、世界的に見たらイタリアが多すぎなのではなくて、日本が少なすぎなのでした。

この30年、時間も経費も節約節約、削れるところは削るべきと進められてきた公務員削減は、一見すると税金の節約のようですが、公的業務を人材派遣の大手代理店に民間委託したことにより、代理店は中抜きで儲けるものの、実際の働き手が受け取る給与は減らされ、いつ契約切れになるかわからない不安は消費活動もしぶらせ、巡り巡って社会を疲弊させてきたようです。

正社員削減も然り。非正規を増やすことで事業経費の節約になったのかもしれないけど、従業員の消費活動を抑制させ、経済を停滞させた。

以前の輝きを失ってしまっただけじゃなく
酸素まで奪われてアップアップしてるような、まるでゆとりのない社会になってしまってるようにみえてしまいました。

だったら、GDPは日本より低いけど、教育費はそんなにかからず、社会的ゆとりがあって、よっぽど生きやすいここにいる方がいいだろう。となったのでした。

それから3年。

イタリアの学校もいろいろ問題があるとはいえ、高校は30人と、ちょっと多人数のクラスになってしまったけど、中学までは20人くらいのクラスで、のびのびワイワイできてたし、宿題はしなきゃいけないけど、受験勉強の必要なく、本をいっぱい読んで、映画をいっぱい見て、ゲームも思いっきりして過ごせてる。

かくれ体育会系な私は部活みたいに運動はしてほしいと思うけど、田舎だから校外スポーツクラブの選択の幅が少なくて断念しましたが、天気がいい土日には、長ーい散歩を一緒にできてるからこれでよし。

これができるのも時間があるから。

コロナでアルバイト収入はゼロになってしまったけど、自然に囲まれた環境で地産地消の食生活。細々ではあるけれど心豊かに暮らしていけてる。

さらに言い添えると、ここでは外国人の私が少額ながらもこの国から遺族年金をいただいてることに申し訳ないなーという気もするし、よく思ってない人もいるだろうなーと気になりもしますが、消費税22%の国ですから、生きるための消費活動をするだけでも、国の税収の一部をわずかながらも担ってる。この国に必要なんだ!と自己肯定もできちゃってるのです。
(食品にかかる消費税は4~10%だからエンゲル係数が高いわが家の税負担はほんとに大したことないのだけど、22%のものもそりゃー買いますからね。。)

外から見たり、他と比べるまでもなく、すでに皆さんの心の中にある「このままじゃヤバいでしょ」という想い、そろそろ形にする時なのかもしれません。ハッシュタグにでもしてみたらいいかも。

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