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ジョン・フォード監督「静かなる男」〜小林信彦・蓮實重彦・村上春樹が推す

今回も小林信彦「外国映画ベスト50」クエストなのだが、以前に蓮實重彦の“ジョン・フォードこの20本“というリストも取り上げた。

双方に登場するジョン・フォード監督作品が「静かなる男」(1952年)である。

ジョン・フォードはアイルランド移民の子。“フォード“という姓なので、アイルランド系とは思っていなかったのだが、本名はFeeny、ルーツの名前はO'Feeny〜オフィーニーだそうで、これならなるほどである。

多数のフォード作品に出演し、「静かなる男」の主演女優でもあるモーリーン・オハラ、こちらはO'Haraで明らかにアイルランド系、調べるとアイルランド生まれである。主演はジョン・ウェインだが、彼の高祖父がアイルランド出身、フォード、オハラと比べるとアイルランド色は薄い。

なぜ、こんなことを書いているかと言えば、「静かなる男」の舞台はアイルランド。ジョン・フォードが自身のルーツに敬意を表した作品であるからだ。

ジョン・ウェインが演じるのはアイルランド系アメリカ人のショーンで、このショーンが生まれ故郷のアイルランドを訪れるという設定である。ショーンはアイルランドにルーツを持つものの、考え方はアメリカ人である。

ショーンと惹かれあう関係になるメアリーを演じるのがモーリーン・オハラで、同居する兄ウィルがヴィクター・マクラグレン、二人は生粋のアイルランド人という役柄である。マクラグレンは、ジョン・フォード監督「騎兵隊三部作」でも良い味を出していた俳優。

ショーンとメアリーの結婚を画策するフリンを演じるのがバリー・フィッツジェラルドで、この人が私の好みの役者。

ドラマは、ショーンとメアリーの結婚、それに反対する兄ウィル、それに絡むフリンや牧師といった村の人々。このドタバタに、結婚するに際し、持参金などがないと恥といったアイルランド人気質が映画のポイントになってくる。

なんだか落語のような話で、アイルランドと日本という同じ島国に通じる文化を感じる。そう言えば、日韓のサッカーW杯の時も、アイルランドが結構人気だったように思う。ラグビーも含め、日本人が共感する何かがあるのではないかと、「静かなる男」を観ながら考えていた。

ジョン・フォードと言えば、西部劇のイメージがあるが、その中でも光るのは人間ドラマで、「静かなる男」はそれが“軽快“に表現されたのではないかと思う。

「2001年映画の旅」で小林信彦さんは、<ジョン・フォード一家がアイルランドで遊びながら作ったような映画だが、名作です。>と書いている。

村上春樹も大好きな「静かなる男」。「村上さんのところ」(新潮社:期間限定で読者からの質問に村上春樹が答えたサイトを編集したもの)で、“何度も観ても飽きない映画ベスト3“(2015年4月28日)を聞かれた村上さんはこう回答している。

<二つしかありません。どちらもすごく古い映画ですが、ジョン・フォードの『静かなる男』と、フレッド・ジンネマンの『真昼の決闘』です。四面楚歌みたいな状況に置かれたときに(何度かそういうことがありました)、よく観ました。見終わると、「僕もがんばらなくちゃな」という気持ちになれます。>

小林・蓮實・村上の推す「静かなる男」、荒んだニュースを中和するにはベストの作品です


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