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映画「PERFECT DAYS」を観る(その1)〜公衆トイレ掃除と「男はつらいよ」

役所広司がカンヌ映画祭で最優秀男優賞を受賞した「PERFECT DAYS」、気にはなっていたのだが、ちょっと躊躇していた。

監督はドイツ人のヴィム・ヴェンダース。「ベルリン・天使の詩」でカンヌの監督賞を受賞した巨匠。私はこの映画を観たのだが、なんだか乗り切れなかった。その監督が撮った、東京の公衆トイレ清掃を仕事にする男の話、どんな映画なのだろうか。果たして楽しめるのだろうか。

予告編を観ると、私の気持ちが分かるかもしれない。ここはひとつ識者の意見を聞こう。

正月三日に義弟、義妹家族が遊びに来た。義弟は映画・ドラマの編集の仕事をしており、もう観ているだろうと思い尋ねたが未見とのことだった。数日後、義弟から妻に連絡があり、本作について「面白い」との評だったので、週末土曜日に観に行くことにした。

話は飛ぶのだが、「PERFECT DAYS」を観た翌日曜日の早朝、いつものように「男はつらいよ」をBGM代わりに流していた。この日は第26作「男をつらいよ 寅次郎かもめ歌」。定時制高校の授業のシーンで、国語教師(松村達雄〜2代目‘おいちゃん‘)が、濱口國雄の「便所掃除」という詩を朗読していた。駅の公衆トイレを掃除する国鉄職員の詩である。

教師は定時制で学ぶ若者たちに、詩の解説を挟みながら最後の一節を読み上げる。
<便所を美しくする娘は 美しい子供をうむ と言った母を思い出します
僕は男です 美しい妻に会えるかもしれません>

特別に教室に入れてもらった寅さん、一番後ろの席で詩に感動している。。。と思いきや、こっくりこっくり居眠り、教師の顔に落胆が広がる。

「PERFECT DAYS」の前半の私は、寅さんさながらだった。ほとんどセリフもなく続く、トイレ掃除という詩的なシーンに、時折うたた寝をしていた。

もちろん、「便所掃除」はJRが国鉄といった時代で、「PERFECT DAYS」に登場するようなSF映画にでも出てきそうなトイレとは違う、“リアル“な世界だったであろう。役所広司演じる平山という男のトイレとの格闘は、もう少し心地よい風景である。ただし、本質は共通するものがある。

ただ、アニマルズの“朝日のあたる家“(The House of the Rising Sun)を始めとする、平山が車の中でカセットテープで流す音楽が印象的だった。

ちなみに、「男はつらいよ」の中の伊藤蘭は、詩の朗読を聴くと、ため息をつき何かを考えている。「PERFECT DAYS」の前半に感じいる感性豊かな観客も多いだろう。

私の方は、「このまま最後まで続くのかぁ〜やっぱりヴェンダースかぁ」と考えていた。しかし、後半に入り私はグッとこの映画に引き込まれていくことになる。これは観るべき作品だった

(続く)


*蛇足だが、「男はつらいよ 寅次郎かもめ歌」の中の伊藤蘭は、「ブギウギ」の趣里とよく似ている。親娘なのだから、当たり前だが


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