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縁は異なもの乙なもの〜“いろはかるた“と落語「厩火事」

小学生の頃、“いろはかるた“(江戸)で遊んでいた。「犬も歩けば棒に当たる』で始まるかるたである。“え“は「えてに帆をあげる」(得意なことを調子に乗ってするー広辞苑第七版)だが、“ ゑ“の札は、「縁は異なもの」だった。

この札を読むと、母だったか祖母だったかが、「縁は異なもの」〜「乙なもの」と続けていた。子供心になんだか良い文句だと思った。同意で、辞書に載っているのは「縁は異なもの味なもの」だが、“乙なもの“の方がピッタリくる。

6月25日放送、山下達郎の「サンデーソングブック」。リスナーからのお便りの中に、“大切にしているギターに妻がつまずいた。思わず、ギターの方を心配したら、妻からこっぴどく叱られた」というものがあり、達郎は「これまるで落語の『厩火事』」とコメントし、この噺のサゲをつぶやいた。山下達郎は落語ファンで、時折落語の話題が登場する。

落語「厩火事」、私は大好きな演目だが、この噺のマクラで多くの落語家が男女の縁の話をふる。

長屋に住む、おさきさんは腕が立つ髪結い。亭主はぶらぶらしている、いわゆる“髪結いの亭主“。仲人を務めてくれた旦那に、また夫婦喧嘩の相談である。しじゅう喧嘩しているので呆れ顔の旦那に、おさきは亭主が本当に自分のことを思っているのかが分からないと。

旦那は、亭主の悪い点を挙げ、「あんな奴とは、もぅ別れちまいな」と言うと、おさきは「でも、いいところもあるんですよ」とかばいつつ、それでも亭主の了見が分からないと嘆く。

そこで、旦那が知恵を授ける。亭主の大事にしている瀬戸物をあやまって割ってしまうという芝居をしろ。 そこで旦那が瀬戸物の心配をしたら別れろ、お前のことを心配したら大丈夫だ、亭主の気持ちは本物だと。

もしも瀬戸物の心配をしたらどうしようと不安にかられながらも、おさきは一芝居打って亭主の心中を確かめようとする。。。。。

おさきさんは、稼ぎのない相手をパートナーとする。少し前に流行った言葉だと、“だめんずうぉーかー“的な女性なのだろう。そこにある愛情は、他人にはなかなか理解しがたいし、本人も悩むことがあるだろう。それだけに、この噺の中のおさきは可愛いし、愛おしい。

笑いを取れる場面も多いし、いわゆる「人情噺」ではないが、この落語はある種の人情噺である。

加えて、実用的な話である。パートナーを持つ人は、この話をよく聞いておいた方がよい。人間、悪気はなくとも、ラジオに投稿した男性のように、地雷を踏む発言をすることがある。「厩火事」を聴いて、しっかり頭に留めておこう。

私が最初に聞いたのは、古今亭志ん生の音源だと思う。売れる前の志ん生は、まさしくおかみさん“おりんさん“のやりくりで生活していた。その生活の匂いが漂ってくるような口演である。息子の古今亭志ん朝は、さらに洗練された芸へと転化させた。

柳家小三治の「厩火事」も素晴らしい。「厩火事」は東京の噺だが(大阪のおかみさんはもっと直裁的だろう)、笑福亭鶴瓶が演じた高座に接したこともある。鶴瓶的な、素敵な演じ方だったと記憶する。

夫婦の縁、他人が理解できるような単純なものではない。落語は、そんな当たり前のことを、面白おかしく教えてくれるのだ。

そう言えば、“いろはかるた“の“わ“は、「破れ鍋に綴じ蓋」だ


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