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落語「つるつる」が言いたいこと〜春風亭一之輔の三昼夜(その1)

10月28日から、よみうり大手町ホールで春風亭一之輔の「三昼夜ファイナル」が開催された。昼は、さまざまなゲストを呼んでの会。夜は、ネタおろし一席を含む独演会である。私は初日の夜に参じた。

この会場での会は、2014年の一夜から始まり、2015年二夜、2016年三夜、2017年四夜、2018年五夜と拡大し、2019年は七夜となった。その後は、三昼夜となった。今年で、<三日三晩の一之輔づくし ひとまずフィナーレ>らしい。

ネタおろしが1本あるのだが、プログラムに過去の演目が記載されており、これを眺めると一体どんなネタが残っているのかと思う。

開口一番は、弟子の春風亭㐂いち、新作の「はらわれ」。そして登場した一之輔は長ーいマクラに入った。ダブル・ブッキングに絡むエピソードを紹介して、 一旦高座を降りた。主催者のサイトには、「諸般の事情」と、演目として記載されている。

再び登場し入ったネタが、初演となる「つるつる」。たいこ持ちの一八、岡惚れしている芸者のお梅に告白したところ、深夜2時に訪ねてくれたら一緒になるとの返事。ただし、5分でも遅れたら縁が無かったことにすると。酒にだらしが無い一八に釘を刺した。

こんな日に限って、馴染みの客から声がかかる。一八は事情を話して断ろうとするが、旦那はそれなら12時まで付き合えと柳橋に連れていく。座敷では案の定、酒を飲まされ。。。。。

口演後、一之輔は「何が言いたいんですかね」、「パワハラ。。。悲哀ですかね」と語った。

「つるつる」と言えば、八代目桂文楽である。ただ、私はあまり好きな話ではなかった。一八に対する旦那の態度が、まさしく“パワハラ“に感じたからである。

しかし、この日の一之輔の噺を聴きながら、旦那のパワパラに耐える幇間の悲哀というテーマでは無いように感じた。旦那は、根っから悪い人ではなく、一八を試しているだけではないか。一八自身がその気になれば、いかようにもあしらうことができた。それができなかったのは、お金が欲しいこともあるが、お梅が気にした、酒に対するだらしなさにある。つまり、酒にだらしなく、そのせいでしくじりを重ねてしまう、一八自身の問題である。

改めて、桂文楽の録音を聴くと、やはり旦那にパワハラはなかったと感じた。もちろん、旦那は一八をからかい半分にいじめる。客は彼を従わせることによって気持ち良くなり、一八はそれでお金を稼ぐプロフェッショナルである。

そう考えると、この演目は客に逆らうことのできない幇間の悲劇ではなく、酒の魔力を自分の意志でコントロールできない、多くの人が体験した出来事を、極端な設定によって面白おかしく再現しているものと言えよう。

なお、私の聴いた録音は、大阪で開催された「上方落語をきく会」に文楽がゲスト出演したもの。文楽が演じる一八の酔態に、客席から自然に拍手が起こっている。この芸の力はすごい。

ご参考までに、「つるつる」の下げは、「井戸替えの夢」である。井戸にはさまざまなゴミが飛び込んだり、その壁面に汚れがついたりする。それを年に1回、井戸の水を汲み上げて掃除をする。これは、長屋の重要な行事であり、皆仕事を休んで参加する。仕上げには、職人が縄に吊り下がりながら、井戸の底へと入り清掃をほどこす。その下りる様子が、「つるつる」である。

ここで中入りなのだが、時間はすでに20時30分。会場入口に掲示されていた、終演予定時間である。。。。。

後半は明日



*落語研究会における、桂文楽晩年の高座。ちょっと音のシンクロが甘いのでご注意を



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