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短編:現実は毎日が答え合わせ

「まだ、体に眠剤が残って。頭がぼんやりする」
社食でつぶやいたことへ反応があった。
廊下、エレベーターなどで私と2人きりになり
「1錠貰えないかな」お願いの声。

眠れない人がいるのね、良からぬ事に使う人、
眠剤の需要がある答え合わせ。
他人の話を聞いてないようで聞いている、
答え合わせ。

「メンタルクリニックへ行ってみては?」
法律違反をしたくないより、私が譲ると私が眠れない夜は増える。
眠れなくなる人のことより、自分の願望を叶えたいエゴイストや想像力がない人はこんなにいるのね。

1人だけ、
お金を払うから全部譲って欲しいという子がいる。

「何でそんなに欲しいの?」
「眠り薬を大量に飲むと死ぬんですよね?」
いや〜、今はそんな事ないでしょう。

「差し出がましいけど、
死にたい程の悩みがあるのかな?」
「いいえ。そうじゃないんです」
「まさかと思うけど、人様に飲ませたいの?」
「それはないです、ない。自分が飲みます」

「眠剤飲んで、死んで…目的は死ぬじゃなくて?」
「はい。なんか、なんか来世に行きたくて」
「来世?」「はい」

「じゃ、眠剤を飲んでお亡くなりになったと
仮定しましょう。生まれ変わりました」
「はい」
「現世の自分とどうやって答え合わせするの?」
「タイムマシンみたいなヤツとか」
「ん?」
「魂は前世、現世、来世が数珠繋ぎになってる気がします」

「どうして来世に行きたいわけ?」
「だって夢があるじゃないですか。来世は立派な人になってるかもしれないし。そうだったら、現世で頑張り甲斐がないですか?」

「あなたは来世のために頑張ってるの?」
「いけません?」
「いけなくはないけど…今世で夢を持つとか」
「今世、ああ現世? 夢が持てないから来世に賭けるんですよ」

私は落語みたいな会話に終止符を打たねば。

「今、頑張っていたら、現世で報われるよ」

「努力はいつも報われていました?
僕は僕なりに頑張っているつもりです。
働いても給料の中から8万円は税金で引かれて、
少しずつ貯金して贅沢しなくても、結婚は無理。
婚活しても僕は『弱者男性』の部類で
女の人から見向きもされません」

努力から結果までが短いスパンを繰り返し、
『世間の普通』ってハードルが高くなると
そこに成功体験が少なくなるし、失望するかもな。

『世間の普通』の『相場』って誰が決めている。

他人の価値観で自分が首を絞める数、相場。
人並みになりたくて、未来を不安視し、
眠剤に頼るようになった私もこの子と変わらない。

現実は毎日が答え合わせ。

「もっとラクしていいからさ
『答えは楽しい』決まった数、増やしていこうよ」

この子に言い聞かせるよう、
私は自分へ言ってみた。

#青ブラ文学部
#山根あきらさん