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【提案】憲法9条の問題は「附則」で解決を!

憲法9条の改正論議

 憲法9条を中心とした改憲議論を政権与党が盛り上げようとしています。今のところ自民党としては、憲法9条に加えて、新たに「9条の2」を設けて、そこに自衛隊を明記するという案を考えていることが公になっています。

 9条についてはそれこそいろいろな議論がありますが、私としてもまず現時点での考えを示したうえで、論点を整理してみたいと思います。

9条は手をつけずに、「附則」だけを追加するという案

 私見としては、憲法9条には一切手をつけず、憲法の最後の部分に新たに「附則」を作り、そこに自衛隊(にあたるもの)を、あくまで当面の例外的な経過措置として盛り込むべき、というものです。

 (憲法は第103条までありますが、その後に、条文の番号のない「附則」を追加するわけです。)

 この附則について、具体的な案を一つ示してみましょう:

 附則(経過措置)
   1:本改正の施行の時において現に存在する、国民の生命および財産を守るための必要最小限の実力組織については、正義と秩序を基調とする恒久的な国際平和が達成されたときに、第9条2項に従い、すみやかに解散するものとする。
   2:前項の実力組織は、法律の定めるところにより、内閣総理大臣の指揮監督に従う。但し外国の領土において戦闘行為を行うことはできない。     

 当然賛否様々な感想が出てくるでしょうが、この案の解説は後に回して、まずは議論の整理から始めましょう。(当然「なぜそんな附則を設ける必要があるのだ、現状でいいではないか」という意見もあるでしょうが、それについての自分なりの答えも示しています。)

9条と「戦力」について

ここで改めて日本国憲法の第9条を見ると、次のとおりです。

第九条 1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
    2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 細かい解釈論に立ち入る余裕はないのですが、一般的には、まず第1項「国際紛争を解決する手段としての戦争」とは、侵略戦争のことを指すものと解釈されています。
 つまりこの第1項は、「国際紛争を解決する手段としての戦争」を永久放棄するものであって、自衛のための戦争は放棄されていないということになります。

 次に第2項を見ると、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とありますので、ここでは軍隊のような一切の戦力を保持しないこととしているという解釈が憲法学の世界では有力です。
 この解釈でいくと、第1項では自衛戦争は放棄していないけれども、第2項で戦力の保持をすべて否定しているので、自衛隊のような武力組織は憲法違反だということになります。
 一方、「前項(=第1項)の目的を達するため」という語句があることを理由に、「侵略戦争放棄の目的のため、戦力を保持しない」という意味に解釈し、「侵略戦争に至らない、自衛のための戦力の保持なら可能」という解釈もありました。
  ちなみに政府は、第2項で戦力の保持はすべて否定されているものの、自衛のための必要最小限度の実力は「戦力」には該当しないので自衛隊は合憲であるという立場に立ってきました。(★一部訂正しました)

 ただ素直に条文を読むと、自衛隊違憲論の方が自然な解釈に思われるのは否定できず、憲法学者だけでなくメディアなどでも長年、自衛隊違憲論の方が有力に唱えられてきました。

自衛隊違憲論とその現実的問題

 自衛隊が違憲だという立場に立つとなると、違憲の自衛隊があって良いのかという問題になります。現在の社民党の前身である旧・社会党は、長年にわたり自衛隊廃止・非武装中立を主張してきました。

 そうはいっても、ただちに自衛隊を廃止できるかどうかはもちろん別問題です。
 「自衛隊は違憲だから廃止すべきだ」という考えを貫くなら、自衛隊の活動を直ちに停止し、少なくとも翌年度の自衛隊の予算は、自衛隊の組織解散に伴う後始末(隊員の再就職とか、防衛施設や装備の解体撤去・廃棄等)に必要な経費に限るようにしなければならないはずですが、現実には困難でしょう。
 そこで「自衛隊は違憲だ。直ちには廃止できないのは仕方ないとしても、むやみに拡大させるな」という感じの主張が、長年有力に唱えられてきたのでした。

聞かれなくなってきた自衛隊違憲論

 そうこうするうちに、近年の政治状況の中で、自衛隊違憲論を唱える声が政界でも言論の世界でもほとんど聞かれなくなりました。
 これはもともと自衛隊を容認する政治家や論者が大多数になってきたということもあるでしょうが、それよりも、政権与党が改憲を堂々と口にするようになった現在では、「自衛隊違憲」を主張しすぎると、逆に「それなら9条を改正して合憲にしなければ」という世論が強まってしまうことを恐れて、自衛隊違憲論を言い出しにくい雰囲気の世の中になってきたということもあるでしょう。

逆転の構図 - 政権与党側が違憲論?

 戦後長い間は、政権与党が「自衛隊は合憲」と主張して、それに対して旧・社会党のような野党が「自衛隊は違憲である」と批判する構図だったのですが、今や政権与党が「自衛隊は違憲である(という疑いが提示されている)」と主張して、それに対して野党が「自衛隊は合憲である(だから改憲の必要はない)」と批判するという形になり、まさに構図が逆転した観があるのです。

現状のままにすることの弊害

 この問題はどう考えたら良いのでしょうか。

 先ほど述べたとおり、政局的な思惑は抜気にして条文を素直に読むと、やはり自衛隊違憲論の方が自然に思えます。現実に自衛隊を廃止できるかどうかは別として、条文の解釈としては、戦後長い間自衛隊違憲論が有力だったのは、それなりに理由があるわけです。

 これに対しては、極端な話「だから、そんな現実離れした憲法9条なんか無視すれば良い。神学のような解釈論は学者にやらせて放置しておけ。しっかり防衛力を整備すれば良い」とか「憲法9条なんか、しょせんお花畑の夢物語だ」という類の意見も見受けられます。

 実は、世間にこのような態度が出てくることこそが、まさに違憲の疑いを放置することによる弊害なのです。

 つまり「すぐには自衛隊は廃止できないとしても、自衛隊は憲法9条違反」という主張を貫いてしまうと、逆に「どうせ憲法9条なんか守れないんだから、守らなくても良い」という空気が広がることに加担してしまう恐れがあるわけです。

憲法を軽んじる空気の問題

 これは憲法の9条だけの問題でありません。「憲法は単なる理想論で、厳密には守れないんだ」という空気が、他の条文にも広がって行ったら、果たしてどうなるでしょうか。
 例えば18条(奴隷制の禁止)や、21条(表現の自由)や、36条(拷問の禁止)まで、同じように「憲法は単なる理想論で、厳密には守れるわけがない。多少違反してもいい」と平気で考えられるようになったら、一体どうなってしまうでしょうか。

 こう考えると、憲法9条と実態(自衛隊の存在)の矛盾を放置しておくことは、結局は憲法そのものを軽んじる空気を強めることに加担してしまうのではないかと思うわけです。

解決案としての「9条維持」+「附則」

 それでは、どうすれば良いのでしょうか。やはり自衛隊を直ちには廃止できないというのなら、「直ちには廃止できない」ということを織り込んだ上で、憲法の規定を改正するしかないと私は考えます。

 そうなると現在自民党が考えている「第9条の2を加えて、自衛隊を明記する」という案で良いのかという話になりますが、私は別な案を考えています。

 それは、①現在の9条はそのまま残す、②そのうえで、憲法の条文の最後に、やむを得ない例外規定であることを示す「附則」を追加し、そこで「当面の間」最低限の戦力(自衛隊)の存在を間接的に容認する規定を盛り込む、というものです。

 やはり9条の理想はそのまま活かすべきですから、現在の9条は手つかずで残すべきでしょう。そこで、現在の憲法の条文すべての後に、いわば補足のような感じの位置付けで「附則(経過措置)」という条項を追加するわけです。

 理屈としては、9条によれば、本来は自衛隊を含め一切の戦力の保持は違憲となるものの、これに対する例外として、附則(経過措置)を追加して、現実問題として国の安全保障の見地からみて直ちに自衛隊を廃止はできないので、当面の間、経過措置として自衛隊を存在させる…という形になります。

 ここで、冒頭でご紹介した案を再び示してみましょう。

附則(経過措置)    
   1:本改正時において現に存在する、国民の生命および財産を守るための必要最小限の実力組織については、正義と秩序を基調とする恒久的な国際平和が達成されたときに、第9条2項に従い、すみやかに解散するものとする。
   2:前項の実力組織は、法律の定めるところにより、内閣総理大臣の指揮監督に従う。但し外国の領土において戦闘行為を行うことはできない。     

いかがでしょうか。ここでは、自衛隊を一般的に「必要最小限の実力組織」と呼んでいます。これを積極的に良しとするのではなく、現に存在する以上は、将来の理想実現までは存在することはやむを得ないとして、あくまでも間接的な表現で容認するのです。

「恒久的な国際平和」とは一体いつ?

 これに対して疑問が出てくるとすれば、「恒久的な国際平和」が実現されるのは一体いつのことなのかという点でしょう。 
 それは10年後かも知れないし、20年後や30年後かも知れないし、ひょっとしたら100年後かも知れません。これはまさに国民が努力をして実現を目指していく将来の目標として位置づけるべきことだと考えます。

おわりに

 このように、高い理想を示した憲法の9条をこのまま残し、自衛隊が憲法9条に違反しないかどうかの解釈論を解決するため、やむを得ない当面の例外的な経過措置として「附則」を追加して憲法に組み入れるというのが、ベストとは言わないまでもベターな選択ではないかと思うのです。

 (仮に「自衛隊は憲法9条2項には違反する」という解釈をしたとしても、追加される「附則」によって、憲法全体で見れば最終的には合憲となるわけです。)

 当然、異論もいろいろあることでしょうが、議論の材料になればと考えています。

よろしければお買い上げいただければ幸いです。面白く参考になる作品をこれからも発表していきたいと思います。