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「つながり」の可能性を引き出す営利企業の仕掛けとは?

こういった取り組みは昔からありますが、「巻き込み型」商品開発の意義をアップデートさせる時期にあるような気がします。

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2011年度より「お菓子コンテスト」を毎年開催しているカルビー株式会社、2019年度に1位を受賞した「コロコロベジタブル」が数量限定で販売開始された。

2019年度は「野菜を使った健康的なお菓子」がテーマ。関東圏の児童から計1,032名の応募があったという。

商品画像は正直そそられなかったが、アイキャッチで使われているイラストはカラートーンの見栄えは良い。応募後の商品開発プロセスは分からないが、応募者の意図が反映されているデザインになっているのではないか。

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カルビーの事例で有名なのは「じゃがり校」だ。

「じゃがりこ」のコアファンと共に、じゃがりこの新商品を作る。商品コンセプト開発〜味やパッケージの企画〜プロモーション案をまるっと、1年掛かりで作る力の入れようだ。

実際にじゃがり校発の商品売上は、本家じゃがりこを上回ることもあるそうだ。

残念ながら2021年3月末を持って終了となるようだが「ファンを作る、ファンと作る」という一連のプロセスを体験したカルビー社にとっては今後も無形資産として活用が期待できるだろう。

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2018年に株式会社湖池屋の代表取締役・佐藤章さんが出演したNHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」も記憶に新しい。「プロフェッショナル子ども大学」と称し、集まった小学生たちにお菓子の商品企画をさせている。

小学生が考えてきた企画を、物腰柔らかくもビシバシとダメ出しする佐藤さんの姿が印象的だった。

「このお菓子、君は本当に食べたいと思ってるの?」

と何度も問い質す。インターネットで調べてきた程度のリサーチは一刀両断する。「そこそこ」の企画に対しても「もう一度最初からやり直しておいで」と伝えたり。企画のプロフェッショナルは自分にも他人にも厳しい。子どもの可能性を引き出すエデュケーショナルな機会として僕も刺激を受けた。

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コミュニケーション・ディレクター佐藤尚之さんの『ファンベース』では、ファンを大切にすることが現代のマーケティングに不可欠であると述べられている。

ファンベースとは、ファンを大切にし、ファンをベースにして(ベースには、土台、支持母体などの意味がある)、中長期的に売上や価値を上げていく考え方だ。(中略)
あなた自身も身の回りでいくつか思い当たるのではないだろうか。日用品でも食料品でもファッションでもスポーツ用品でもアプリでもいい。他のブランドや商品が数多くある中、強く惹かれ、愛用し、思わず友人に薦めたブランドや商品があるはずだ。それは支持だ。ブランドや商品が提供してくれている価値を支持して、購入しているのである。
そういう意味において、ボクは「ファン=支持者」だと思っている。
もう少し言うと、ファンとは「企業やブランド、商品が大切にしている『価値』を支持している人」と、この本では定義したい。
(佐藤尚之『ファンベース〜指示され、愛され、長く売れ続けるために〜』P7〜8より引用、太字は本書より)

厳しい言い方になるが、コンテスト形式のユーザー巻き込み型企画は、もはやありきたりのものだ。

確かにファンには嬉しい。選ばれれば誇らしいし、その企業のことを「好き」になってくれるだろう。

だが「じゃがり校」や湖池屋社のように、代表取締役や企業担当者がガッツリと企画にコミットする事例はそれほど多くない。当然のことながら、ユーザーを巻き込む施策の多くは、お金や人的リソースを多く要し「コスト」として割りに合わないからだ。

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では、ユーザー巻き込み型企画は実施されない方が良いのだろうか。僕は「実施すべき」と言いたい。

昨年賛否が議論されたローソンPBのデザインリニューアルについて振り返ってみたい。

一部では「インスタ映えする」と好評だったものの、視認性の低さが問題視された。公共性の高いコンビニエンスストアとしてはどうなのか?という声が頻出した。実際に、ローソン代表取締役の竹増さんも「ユニバーサルデザインの観点からは失敗だった」と認めている。

成否のポイントは幾つかあるので単純化するのは野暮だろう。だが僕は、一連の意思決定プロセスの中で、顧客やファンのインサイトを掴めるような施策や仕組みを準備しておくだけで、ある程度の「失敗」は回避できたのではないかと思っている。

例えば、デザインしたnendo・佐藤オオキさん、ローソン社員、ファンの三者がデザインについて議論できる場を設けるとか。

もちろん佐藤さんは多忙を極める「売れっ子」だし、そこまでコミットしてもらうのは無駄が多くなるかもしれない。

それでも、デザインを決定するプロセスそのものが「ストーリー」になるような「演出」ができたとしたら、ローソンPBの見え方はまるで違って映ったに違いないと僕は思う。

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営利企業である以上、コストに対してペイを考えるものは「売上」や「利益」でなければならない。だが、それだと短期的な視野でしか物事を捉えることができない。無駄や余白が生み出す冗長性は、ファンベースマーケティングを考える上である意味必要経費になってくるのではないだろうか。

前述した『ファンベース』に戻る。

「人生を幸せにするのも、人を健康にするのも、人間同士のつながりである」というロバート・ウォールディンガー教授の言葉を引きつつ、このように本書は締められる。

この「つながり」のことと、ファンベースを短絡的に結びつけることはしないが、ただ、「企業とファンとのつながり」が、幸せや健康に直結していたら、それは素晴らしいことだなぁ、と、ちょっと夢想する。
企業の本業とは生活者の課題解決であり笑顔を作ることで、それを日々実行している企業活動はそれ自体が社会貢献だ、と、「はじめに」で書いた。
ファンベースでできる「つながり」が、その貢献をもうひとつ増やしてくれるなら、それは本当に素晴らしいことだと思う。
(佐藤尚之『ファンベース〜指示され、愛され、長く売れ続けるために〜』P273より引用、太字は本書より)

ユーザーと「つながり」を持つ意義は一つではない。それこそ企業の数だけ、その企業らしい意義が存在するはずだ。

それを理解した上できっちり言語化する。ブレずに実践すること。

「分断の時代」と言われる今こそ、生活者が笑顔になるような仕掛けが生まれていきますように。それが経済やビジネスが起点となるようであれば、企業の役割や意義もまたアップデートされていくに違いない。

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