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アフターコロナの旅をデザインするには

2020年9月1日発売の雑誌「AXIS」、特集タイトルは「次のデザインはどこから?」だった。

アフターコロナ 悲観的なシナリオ

言わずもがな「次」とはアフターコロナを指している。

新しい生活様式への切り替えが要請され、耐え忍ぶ日々が続くもコロナウィルスの終息時期は未だ不明だ。欧州では再び感染者数が増え、ロックダウンに見舞われる国も散見されてきた。

ニュース性の高いパンデミックをテーマに、様々なメディアやプラットフォームで議論が交わされている。肯けるものもあれば、首を傾げるものもあった。「帰省は許されるのか」「オリンピックは開催すべきか」「Go Toキャンペーンを支持するか」など様々なレイヤーのイシューに、僕らは否応なしに巻き込まれていく。(一部の尖鋭な穂先は、SNS上に投棄されている)

無防備な人が多く傷つけられる「コロナ疲れ」の主因は人災によるものかもしれない。そう思えるほど、目に見えないウィルスと対峙するのは難しい。

デザインが示すアフターコロナとは

AXISが読者に信頼されてきたのは、デザインという切り口だ。

本号の特集記事で扱われているのは、リビング、モビリティ、ワーク、メディカル、ファッション、トラベル、エンターテイメント。7つの分野で示されている「次のデザイン」のヒントを読み解くことができる。

例えば「ファッション」の分野では、YUIMA NAKAZATOの中里唯馬さんが取材を受けている。「(コロナウィルス感染拡大の)結果として機能性を意識せざるを得ない状況となった。そういうときこそ装飾性や情緒性に富んだ衣服が人の気持ちを高め、心の救いになると思う」と語っている。

・通勤は無駄だよね
・オフィスという固定費を見直さないと
・打ち合わせは全部ZOOMで良いのでは?

これらは全て機能性という文脈で語られる。だけどそれが全てだろうか。

「コロナだから○○」というロジックが展開されがちだけれど「コロナだからこそ○○」という視点を持つことで、ポジティブで新しいチャレンジに繋がる

機能性、装飾性、情緒性はそれぞれ性質を表した言葉だ。だが厳密なMECEではない。それらを越境することがデザイナーだという中里さんの姿勢に心が震えた。

"Travel as we knew it is over."

Airbnbはコロナウィルスの影響により従業員のレイオフを行なわざるを得なかった。しばらくして共同創業者のBrian Cheskyさんは「僕らが知っていた旅は、終わる」と語っている(*1)。

もともとヨーロッパではグレタ・トゥーンベリさんを起点とする「Flight shame(飛び恥)」のムーブメントが起こっていた。コロナウィルスが決定打となったものの、今後、旅の在り方が大きく変わるのでは?という論調は、さほど新しいものではない。

ヒントになるのはL&Gグローバルビジネスの代表取締役・CCOの龍崎翔子さんの言葉だ。京都や大阪で「HOTEL SHE」を手掛ける彼女は「ホテルを単に寝泊まりするための場所でなく、メディアとして機能させる」という考えを持っている。

彼らはもともとホテルの運営だけでなく「ホテルマーケティングから店舗企画・プロデュース、観光支援、SNS運用まで、クライアント様の課題を解決するクリエイティブを提案する」ことを事業ドメインに定めている。株式会社CRAZYとのコラボレーション(*3)なども注目したい試みだ。

彼らの取り組みを見ていると、関係者同士の協働が単なるリソースの効率的な配分でないことがよく分かる。

様々なステークホルダーとコワークする本質は、顧客価値の創造だ。彼らは、旅に関わる様々な要素を収集、分解を繰り返しながら旅の再編集を試みる。

手段を問わず、旅の体験価値を高めること。そういった意味合いでも彼らを「メディア」と呼ぶのは必然だ。

結果として「僕らが知っていた旅」は終わり「僕らが知らなかった旅」が徐々にスタンダードになっていく。Airbnbや龍崎さんがデザインする「アフターコロナの旅」が楽しみでならない。

参考リンク

*1 "Travel as we knew it is over" says Airbnb co-founder(dezeenより)

*2 Flight shame(フライトシェイム)とは?(IDEAS FOR GOODより)

*3 「毎月とどく、結婚式の定期便」 HOTEL SHE,とCRAZYによる「新しい結婚式」を発売します(HOTEL SOMEWHERE noteより)


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