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[怪談]クマへの供物

これは東北地方にすむNさんがおじいさんから聞いた話
Nさんのおじいさんはお話の好きな方で、おじいさんはよく昔の話をしてくれた。
この話はおじいさんが病床に伏し死の間際になったとき、Nさんに語ったお話。

Nさんのおじいさんが若い頃・・・仮にSさんと呼ぶ
Sさんは昔山で狩りをする所謂マタギを仕事としており、
特に冬の時期になると1週間も2週間も山へこもっては獲物が捕れるまで狩りをしたのだという。
生活収入の乏しい田舎では農家は冬の間の収入源として狩りをすることは珍しくなかった。

その冬は獲物にも恵まれず、夏の飢饉の影響で食うのものにかなり苦労した年だった。
Sさんは一週間に及ぶ猟から戻り久々の我が家でゆっくりと過ごしていた。
1週間の猟と言っても獲れた獲物はウサギ1匹だけだった。

今年の冬をどうやって越そうか・・・
そんな事を考えながら床についたところSさんは死んだ母親の夢を見たそうだ。
夢の中で母親が言うには・・・
「明日裏の山の谷を左手に上がった窪地に行け、そこに穴持たずがいる」

穴持たずとは冬眠し損なって冬も活動するクマの事だ。
クマが獲れればしばらくは喰う物に困らない。

死んだお袋の夢枕に従い、さっそく翌日Sさんは谷を左手に上がった窪地へ向かった。
窪地を見回すとクマの足跡がある。
その跡をなぞって進んだ先に、一頭のクマがいた。
Sさんは逸る気持ちを抑え、慎重に狙いを定めて熊の心臓をめがけて銃を撃った。

仕留めたのは若い雄の熊だった。
穴持たずにしてはよく肥えたクマで優に100kgは越える大物だ。
このクマのおかげでSさん家族は無事にその冬を越すことが出来たそうだ。
Sさんは死んだ母親が助けてくれたのだと大いに喜んだ。

やがて冬が明け山の雪が解ける頃、
Sさんは母親とクマにお礼を言いにクマを仕留めた場所へと向かった。
お袋か、山の神様が自分の家族のためにクマを遣わしてくれたんだ、きっとそうだ。
そう感謝の念を抱きながらクマを仕留めた窪地へと着いた。

クマを撃ったのはこのあたりだったか・・・
そうこう探しているとSさんは妙な物を見つけた。
・・・服の切れ端だ、しかも乱暴に破かれている。
まるでクマに襲われたかのように引き裂かれたその服の模様にSさんは心当たりがあった。

見間違えるはずがない、
それは何年も前に姥捨てで山奥に捨てた母親が来ていた服だ。

クマには襲った獲物を地面に埋める習性というのがある。
服の切れ端が散らばるすぐそばには何かを埋めたような跡があったが、とても掘り返す気にはならなかった。


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