ロマンスの現実逃避16

夜、
昔の悲しい出来事のことをふと思い出した。
わたしは、あなたにその時のことをさらっと話した。
あなたと出会うずっとずっと前のことよ。
あなたは、一緒に悲しんでくれた。
「だいじょうぶだよ。ぼくが支えてあげるからね。」そう言ってくれた。

アパートの一室での、私たちしか知らない小さな小さなやりとりだった。
でも私にとってはまるで、
ロマンス映画の中の2人みたいに、
大きな出来事のようだった。
リストの第3番「愛の夢」が聴こえてくると言ったら、おおげさかもしれないわ。
だけど優しくて、力強くて、儚い時間はまるで、この曲のようだから…

私は震える声を抑えながら
ありがとう、とあなたに言った。
とても照れくさいけれど、
ありがとうって言わないでいたら、自分の気持ちが収まらないから。
「あなたのことも、支えてあげるからね」って言わずにはいられないけれど、、
それを言うのもすこしだけ照れくさくて、
わたしは「お互いに支え合おうね」
と言った。

あなたに分かってもらいたいって思って話した訳じゃなかったの。
ただあなたに伝えることで、私は自分の気持ちを整理しようとしたの。
それなのに、あなたは予期せぬ言葉をわたしにくれた。

ねえ、
あなたに恩返しができるかしら?
私はあなたの支えになれるかしら?
そう考えるほどに、
私はいつだって、あなたからもらってばかりなのですから。

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