ロマンスの現実逃避3

はっきりと目に見えるものだけが幸せじゃないんだと、ぼくはつくづく思うよ。

君がたとえば料理の味見をしているとき、その後ろ姿を眺めていると、ぼくはこの光景をいま、独り占めしているんだって思う。
ぼくにだけ作る君の料理を味わいながら
これが、ぼくの血や肉になるんだって思うと嬉しくなるんだ。ぼくは君の愛によってできているんだってね。

君とスキーに出かけたとき、すぐに転ぶ君をぼくはうまくフォローできなくて、どうしても1人、君のそばを滑っていってしまうんだ。。
それでも笑顔でぼくの滑る姿を見つめる君を
その雪に負けない真っ白な、かわいい君を。。
ぼくにはちゃんと、見えているんだ。
どんな瞬間にも君を感じているのだから。

君とお弁当をもって、近くの小さな公園の紅葉を見に行った。
君は木の下に落ちている枯葉に目をやると、
その枯葉を眺めて微笑む。
ほら、まだ緑色がうっすら残っているわ。
枯葉になりきれていないのよ。きれいね。
そう言ってその枯葉を1枚、胸ポケットにしまった。
そんな君だからこそ、この平凡なぼくのとなりに居てくれたりするのかもしれない。

君が大事にしているコーヒーカップを割ってしまったとき、ぼくはほんとうに申し訳ないことをしたと思って、必死に君に謝った。
毎日使っていたから、君がかわいそうで、かわいそうで。
壊れたコーヒーカップを見ると、君は一瞬寂しそうな顔をしたけど、すぐに笑顔でこう言ってくれたんだ。
「そんなに謝らないで。あなたが
悲しそうな顔をする方がよっぽど、私を悲しくさせるのだから。」

君との日々の生活が、誰にも知られることのない会話とか、2人だけの思い出とか、そんなものがぼくにとっての幸せで、これからも
細く長く続いてほしいと、ぼくは心から願うんだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?