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「私の死体を探してください。」   第26話

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――森林麻美の脳内ストリップ――
    森林麻美のオフィシャルブログ

 
 これが白い鳥籠事件の私にとっての真実です。どうして今まであの事件の関係者であることを、隠していたのか? だとか、どうして今更あの事件のことを書く気になったのか? という疑問をもたれる方もいると思います。
 私は事件関係者であることは隠していたわけではありません。

 私に事件関係者かどうかを尋ねる人がいなかったので、言わなかっただけです。四人の女の子たちが集団自殺した事件の賞味期限はとても短かったのです。
  
 毎日のように残酷な出来事が起きています。悲しいことに、時間とともにどんどん上書きされていってしまったのです。そして、ついに今までだれも私に事件のことを尋ねる人はいませんでした。
 
 どうして、今更あの事件のことを書く気になったのかについては、もう私に残された時間がなかったからです。

 死ぬまでにはあの時のことを小説にしたい。と小説家になってから考えていました。

 私の命が終わるまでにはどうにか形にしたかった。私の友人の佐々木絵美さんに起きていたことを知って欲しかった。

 そして、私の素晴らしくて、悲しい友人たちの話を、誰にもしなかった話をしたかった。 私の読者に彼女たちのことを知って欲しかったのです。

 毒でしかない物語になってしまったかもしれません。
 けれども、毒でしか癒やせない毒もあると思うのです。小説は思わぬところで誰かの役に立つことがあると私は信じています。

 ここからは個人的なメッセージになります。 

 Iさんへ。
 あなたは私とどうしても仕事の関係以上の関係になりたいと望んでいましたね。私の作品を愛してくれてありがとう。私の作品を読んで私自身に興味を持ち続けてくれていましたね。でも、私はあなたと友人や身内のようになりたいと望んだことはありませんでした。
 その理由をこうして書きました。
 
 あなたはこえてはいけない線を超えてしまったと思います。私に近づけないなら、私と同じ持ち物を持ちたいという考え方を理解はできます。私には行き過ぎた憧れというものを抱いたことがありませんが、想像することはできます。そして、あなたは私に一番近い人間になりたくて、落とし穴を自分で掘って自ら落ちてしまいました。

 ある意味気の毒だとは思います。どうしてそうなったのかは私には手に取るように分かるからです。それがどうしてだかは、よく考えてみて欲しいところでもあります。

 あなたはきっと私が言った頼みごとを聞いてくれたんでしょうね。そうでなかったとしたら、このブログの公開はもう少し遅れていたかもしれません。

 こんな公開処刑みたいな形で申し訳ないけれど、一番いい方法がこれだったのでごめんなさいね。

 いくら探しても、あなたと立ち上げたあのシリーズのプロットはあなたには決して見つけられないことを教えておきます。

 きっと、あなたのことだから、血眼で私の仕事部屋の中を探っていることでしょう。

 そろそろ、本当は森林先生はプロットを残していないのではないか? と疑いはじめてもいますよね? 

 プロットはあります。でも決してあなたの手に渡ることはありません。
 私のPCのパスコードをあなたは知っていますよね? そのこと自体もかなり異常なことだと、そろそろ気づいたほうがいいと思います。

 私は黙っていたけれど、他の作家もそうだとは限りません。

 もう一度言いますが、いくら私のパソコンや仕事部屋を自由に漁ってもプロットは出てきません。もう諦めてください。

 そして、金輪際私の作品に関わらないでください。

 それが死を前にした私があなたに望むことです。

 こうしてあなたに何かを書き残すのは迷いました。あなたのことだから、こんな、ひどい内容でも、こうして私があなたに遺書を残していたことを喜んでしまうのではないかとさえ疑っています。

 そう感じるほど、あなたの行動は異常です。作家と同化したいという願望があなたにはあるようですが、その願望は捨てて下さい。

 人との距離感をもう一度考え直したほうがいいです。

 あなたは本当に困った人ですが、私が言ったことはきっと成し遂げてくれたのだろうと信じています。

 さいごになりましたが、

 わたしの夫、正隆さんへ。

 お母さんの事をちゃんと相談しなかったのは申し訳なくおもっています。正隆さんとお母さんの関係に嫉妬していたのかもしれません。

 ブログの最初に

「わたしの死体を探して下さい」

 と書きましたが、わたしの死体はきっとみつかりません。わたしの死体がみつからないと面倒なことになるとは予想はついていますが、正隆さんなら上手くやってくれると信じています。

 そして、わたしがいたときにはできなかったことを実行してください。私にはもうできないこと。

 小説を書いてください。

 それが正隆さんがずっとしたかったことだと知っています。あなたがいつ書き始めるのかずっと待っていました。

 残念ながらわたしはもう正隆さんの作品を読むことはできませんが、読者はきっとあなたのような作家を待っているとおもいます。

 わたしはきっと正隆さんが成功すると信じています。

 もう、わたしの死体は探さないで下さい。わたしの死体は絶対にみつからない場所にあります。わたしたちはいい夫婦とはとてもいえなかったかもしれませんが、それでも一緒に生活してきました。

 きっとこのブログで大騒ぎになって、正隆さんは驚く事の連続だとおもいます。

 それさえも糧にして下さい。
 わたしがあなたに黙って死ぬことに怒っているかもしれませんね。
 ごめんなさい。でも黙って行かせてくれてありがとう。
 さようなら。

                                     令和五年 七月三十日
 
                                    森林麻美



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