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【読書日記】『ナースの卯月に視えるもの』

創作大賞2023別冊文藝春秋賞受賞作、秋谷りんこさんの
『ナースの卯月に視えるもの』が5月8日(水)に発売されました。

『ナースの卯月に視えるもの』

noteに掲載されている作品はもちろん受賞発表時に読んでいるのですが、改稿された書籍版を早速読了したので感想を。

舞台は長期療養型病棟。主人公である看護師の卯月咲笑の職場です。noteの原作の第一話を読んだ瞬間に、ああこの著者の方は医療従事者か、もしくはそのご経験がある方なのではないかなあと感じました。

専門用語の使い方や患者さんの状況などに調べただけでは出てこないリアリティや生々しさがあるなあと感じていたんです。秋谷さんの受賞後のプロフィールを拝見した瞬間なるほどと膝を打ちました。

そして、強い武器を持った人が現れたなあと思いました。自分の専門知識を的確に小説に落とし込めるというのは強い武器です。自分の職業などに対して客観的に見ることができないと難しいですし、詳しく書きすぎても読者が取り残されてしまうので、その塩梅はなかなか難しいのではないのかなあと思うんですよね。

『ナースの卯月に視えるもの』このタイトルを見た瞬間にホラーを読んだり書いたりする私としてはすぐに「卯月に視えるものって幽霊なのかな?」と思ってしまったのですが、「卯月に視えるもの」これがなかなかユニークで面白いと思います。

「卯月に視えるもの」は死を意識しはじめた患者さんの「思い残し」
死ぬ間際になった患者さんの一番気がかりなことがある「人物」それが幽霊のようにその患者さんの近くに視えるんですよね。

この設定が非常に絶妙だなあと思いました。幽霊のように見えている「思い残し」は生きている人なので具体的に何か行動を起こせば解決できてしまうことがある。

主人公の卯月はその患者さんの思い残しがなんなのか誰なのかを少ない情報をもとに調べていくんです。思い残しの人物は必ずしも患者さんにとって近しい人ではないこともあり、これがなかなか見つからない。卯月は時折自分でもやりすぎなのでは? と思うこともあるのですが解決するたびに「思い残し」は確かに消えていきます。

そんな卯月が「思い残し」を視るようになったきっかけが、とても切なくて私は泣いてしまったのですが……。

そちらはぜひ本編で!!!! 書籍で!!!

書籍版で非常に良かった! と思った点は卯月の同僚のエピソードがしっかり加わったこと。これによって、読者としては「思い残し」の解決を追いかける楽しみと、医療ドラマとしての面白みが増えて、より一層この物語に対する愛着が生まれると思いました。個人的に3 苦しみと目を合わせて の本木さんのエピソードは素晴らしかったと思います。

そして、原作でもう少し、いやもっと読みたかった解決編、卯月が思い残しを探すクライマックスのシーンが増えていたのが嬉しかった。

そして、原作にはなかった6話のエピソード!! ぜひ読んでください。

おすすめです。

原作はこちらです。


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