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【読書日記】『クリームイエローの海と春キャベツのある家』

創作大賞2023朝日新聞出版賞受賞作。
せやま南天さんの『クリームイエローの海と春キャベツのある家』が先日4月5日に発売されました。

noteに掲載されている作品はもちろん受賞発表時に読んでいるのですが、改稿された書籍版を読了したので、その感想を。

物語は家事代行サービスの仕事をはじめて3ヶ月の永井津麦が織野家に向かうところからはじまります。

この織野家はどうもそれまで津麦が訪問したご家庭とはちがって、何やら歓迎されていない様子。

けれども目の前に広がるクリームイエローの海(洗濯物の海です)は明らかにこの家の家事が行き詰まっていることを津麦も読者である私も感じました。

ところが依頼主であるはずの織野家のシングルファーザーの朔也さんは頼るべき家事代行の津麦に初対面でかなりつっけんどんな態度なのです。どうも朔也さんは行政からの紹介でしぶしぶ家事代行を頼んだよう。

この織野家のパパ、朔也さんの態度に私は学生時代のバイト先のファミレスのゴールデンウィークの営業のことを思い出しました。

そのファミレスは毎年ゴールデンウィークには誰かが泣くと言われていて、実際に誰かが泣くのを私は見てきました。

学生のバイトが多いお店のゴールデンウィークはベテランの四年生が卒業で去ったあとで手薄になるんです。

忙しくなるのは明らかなのでゴールデンウィークが来るまでに新人バイトを店長は増やすのですが、いざゴールデンウィークになると忙しすぎて、誰も指示が出せないどころか自分の仕事で手いっぱいになる。

指示がうけられないのでイレギュラーなことが起きる(生ビールの樽を交換するなど)と新人はフリーズしてしまう。フリーズする新人に指示を出すより自分で動いた方が早いのでベテランバイトは新人を押しのけて動いてしまう。

そうすることで傷つく人が出てしまい、なんとも悪循環でした。誰も悪くない。悪いのは指示を出す余裕さえない忙しさなんですよね。

朔也さんの忙しさは痛いほど想像ができます。中学生から幼児までの子どもが5人もいるんです。保育園はお迎えに行かなくてはならないし、小学校中学校では帰宅時間も違います。

子どもたちそれぞれのタイムスケジュールを把握するだけでも大変に違いありません。育ち盛り5人の3食に毎日大量に発生するであろう洗濯物。想像するだけでも頭が痛くなってしまいます。

津麦のことをカジダイさんと呼んでいた朔也さんの心境は足の踏み場もないほど床が散らかって途方に暮れているのに、充電もされていないルンバを渡されてしまった。そんなかんじだったんじゃないかなと思います。

そして、回ってないけど、自分なりには回している中で第三者に入ってこられるわずらわしさにも共感してしまいました。

そんな朔也さんの態度にはじめは反発すら覚える津麦なのですが……。

続きはどうぞ本編で!!(笑)

書籍版は津麦の過去、とくにお母さんとの関係性が丁寧に描かれていて、津麦が読者である私の方にぐっと近づいて来てくれたような気持ちになりました。

お料理やお掃除などの家事の描写は読みすすめると癒されます。なぜだろうか? と考えてみると私にとって家事って取りかかるまでは億劫なのですが終わってみるとすごくスッキリするんですよね。それを読むことで味わえているから癒されたのだと思います。

おすすめです。

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