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公務員がタワマンに住むと何か不都合でもあるのだろうか?


 というタイトルで書きだした矢先、私が念頭に置いているのは、「公務員だと都内タワマンの購入は厳しい」「共働きでも湾岸タワマンには手が届かない」「公務員がタワマンに住むとはけしからん」と言った類の言説である。あらかじめ書いておくと、キャリアの国家公務員(現:国家公務員総合職での採用組)はここでの検討対象から外す。なぜなら、こうした巷の言説において暗黙の裡に前提とされている考え方が、「ノンキャリアの公務員は高級住宅には住めない」という固定観念があるように思えるからだ。


 まず、前提として、東京23区で新築分譲されているタワーマンションがいったいどれくらいの相場なのか、を少しだけ検討してみる。本格的に市場サーフィンしてやるとなると面倒だし時間もかかるので、ここでは手っ取り早く、豊洲周辺のタワマンの相場と近い価格帯の物件を検討したのらえもんさんの以下の記事からだいたいの相場観をつかんでいただければいいと思う。https://wangantower.com/?p=18770


 これに加えて、2022年5月に入居開始予定のブランズタワー豊洲の価格表も載せておきます。https://www.e-mansion.co.jp/bbs/thread/651381/

 

 こんな感じ。適当に豊洲ブランズから住戸を抜き出して、月々のローン支払い額+諸経費(管理費+修繕費など)をざっくりと示してみる。

 

 ここでは、


「13F北西2LDK57.73平米・価格:6530万円、坪単価:373万円」

 の部屋を買うことにする。可もなく不可もなく、といった住戸になるかと思う(眺望的にはたぶんそこそこ恵まれている方角だと思います。)。

 

 頭金なしのフルローンで購入することにする。価格ドットコムのシミュレーションで借入金を入力すると、各金融機関の融資条件が簡易に比較できるので便利である。↓

 

 こんな感じ。ざっくりと、ボーナス月には15万ほど追加で支払い、35年で変動金利、という、極めてオーソドックスな設定で、月々の支払額がだいたい14万円弱である。ここに、修繕積立金・管理費が付け加わる。これは、私が住んでいるタワマンの金額でだいたいの目安を出すと、最初の10年間は合わせて3万円くらいである。そうすると、月々の負担はおおよそ、16万円前後ということになる。

 

 少し強めの金額にして、月々18万ということにしておこうか。


 じゃあ、この金額、都内勤務のノンキャリ公務員に払えるの?ということのだが、結論から言えば、払える。払えるし、何なら、巷の言説が言うほどには、お財布的にも厳しくない。


 まず、公務員の給料って、どのくらいなの?というところから説明しなければならないのだけど、それを説明するといろいろ面倒だし、疲れるので、とりあえず、東京都職員のモデル収入でも見てもらいたいと思う。なんで東京都職員の例を出すかというと、わかりやすいからである。それに尽きる。国家公務員の場合、管理職を除いていたり、総合職と一般職の違いがモデル年収だとわかりづらいので、一番わかりやすい事例を持ってきた。

 

 念のため、国家公務員についても一番しっくりくる(私の実感として)データを提供しているブログ記事が以下。ノンキャリア国家公務員に関しては、以下の年代別年収・給料の額はかなり平均的な像に近いと思います。再現度高い。↓

 https://public-allabout.com/kokkakoumuin-syunyu/

 30代半ばくらいまではキャリアもノンキャリも給与にそれほど差がないので、40代までの給与テーブルに関しては、上記のサイトの数値は平均的な職員にとってかなり実感に近い数値になっているのではないでしょうかね。


 さて、マイホームを買うタイミングはひとそれぞれでしょうが、多くの人は30代から40代にかけて家を買うようです。https://www.oscarhome.co.jp/2018/01/38366


 間をとって35歳くらいの時の、23区内勤務、地方・国家公務員(行政職)の年収のマジョリティの額は、だいたい、500万~650万くらいのレンジに収まることが上記ブログ、人事院や東京都が出している公式のデータからわかる。なぜ「23区内勤務」という条件を付けるかというと、公務員には「地域手当」という諸手当があり、これは、各地域の物価状況等を考慮して、賃金に上乗せされる額となっているのだが、東京23区に関してはこれが「20%」となっており、東京都の職員だろうが、国家公務員(ノンキャリア)だろうが、23区内の官署に勤務している限り、一律に、給与が20%程度上乗せされているので、この地域でマンションを買う公務員の年収水準を考慮する時には、この地域手当による上乗せ分を考慮すべきであるからだ(地域手当0%の地域で月収40万円で仕事している公務員は、23区で同じ仕事をすれば月収50万円になるのである。余談になるが、都の職員の給与水準が高めに出るのはこれがあるからで、同じ地域の官署に勤める行政職公務員であれば、国家と地方とでそれほど差が出ない)。


 さて、最初に事例として上げたブランズタワー豊洲の事例でシミュレーションしてみる。モデルとしては、23区内官署勤務の公務員共働き夫婦という設定。35歳時だと、二人ともだいたい、低めに見積もっても年収500万には達しているはずである。そうすると、世帯年収は1000万円。月々の支払額、18万円を二人で案分すれば一人9万円。払えますよね、普通に。一人の手取りが25万くらいでも全然無理のない水準であると思います(もちろん、これは個々の価値観の問題もありますので、車を持とうすればもう少しほしい気がしますし、子供3人を全員私立に行かせるとなると、もうちょい勘案する必要が出てくるかもしれませんが)。


 公務員共働き、という条件が特権的に感じるなら、公務員夫+派遣社員妻という設定にしてもいい。妻の手取りは月々17万円くらいだとする。夫婦の世帯での手取りがだいたい月々40万。無駄遣いしなければ、これでもいけますね。もちろん、この条件でも夫単独でフルローンは組めるはずです。


 ちなみに、上記に示した世帯年収1000万円という数字は、35歳という年齢を勘案した時に、けっこう低めに出ていると思う。これは同業者なら実感として理解できると思うのだが、あえて強調はしない。巷で「薄給」と言われる公務員行政職であるが、23区内官署勤務という条件でフィルターをかけるならば、ノンキャリアであってもそれなりの水準に達していることがわかる。これが、東証一部上場企業の総合職カップルとなれば、なおさら余裕が出てくる。なぜ都内であれほどたくさんタワマンが建つのか、一体誰があんなものを買えるのか、疑問に思う人もたくさんいるのだろうけども、実態としては、そこそこの人が買える、ということになるのではないでしょうか。買うか買わないかは別としても。


 子供を持つにしてもこの水準であれば問題ない。公務員の年収は基本的に年功序列なので、給与カーブは緩やかですが確実に上がっていきますので、35歳時点の年収水準でおしまい、というわけではもちろんありません。この点も考慮事情です。さらに世帯構成が変わり、将来的に家を買い替えることも考えると、価格が下がりにくいタワマンを買うことにメリットがあります。


 「転勤」の有無については確かに考慮事情かもしれません。しかしこの点に関して言えば、キャリアよりノンキャリのほうが、都道府県を跨ぐような転勤の可能性が低く、かつ、それがある時点はおおよその予想がつくため、対応可能です。また、仮に単身赴任になったとしても、扶助は出ますし、共働きであれば家を手放すようなことは必須ではありません。2、3年でまた都内に戻る条件で出ていくことがほとんどなわけで、であれば、人に貸す、というのも選択肢の一つになります。


 さて、タイトルに戻るのだが、「公務員がタワマンに住むと何か不都合でもあるのだろうか?」


 煽りのようでもあるのだけども、私は、厚生経済学的な観点からしても、公務員が分譲タワマンに住むことにはそれなりの公益的なメリットがあると考えている。そのメリットとは、以下のとおり。


 ① 職住近接による業務の効率化

 ② 集住による土地利用の高度化への寄与


 まず、①に関していえば、23区内で分譲されているタワマンの多くは徒歩5分以内の駅近物件である。災害時、あるいは、業務繁忙期において、自宅と職場との往復が高密度で発生する職場で勤務してみればわかるが、家と職場が近いということは業務遂行上、多大なメリットがある。霞ヶ関に勤めていれば、国会開会時に、毎回タクシーで帰宅する時のタクシー代もバカにならないが、このタクシーチケット代も当然のことながら、税金から支出されているわけで、職場と近ければそれだけ通勤にかかるコストも減り、ひいては、税金支出の合理化にもつながるのである。

 災害対応時に職員の自宅と職場が近いことで職員をより動員しやすくなる、という「メリット」については言うまでもない(これは中で働く人にとっては必ずしも「メリット」ではないかもしれないが。)。


 ②について。これは、タワーマンションの特性に由来するのであるが、同じ面積の土地に建物を建てるのであれば、人が多く住める建物を建てた方が、その土地をより高密度で利用できることになるわけで、共用施設の充実や周辺の再開発なども含め、都心・近郊のタワーマンションに住むことで、「コンパクトシティ」の実現に寄与することにもなる。

 タワマンは無用の長物などではなく、むしろ、土地を高度利用するという観点からすれば、人が多く住むことによる「規模の経済」を最大限活かすことができるという点において、これ以上ない「土地の高度利用」だと思っている。もちろん、将来的な建て替えを見据えた修繕費・管理費の負担は軽くはないものの、それを負担できる世帯が入居している、という部分が担保されている限り、むしろ理想的な土地の高度利用のあり方だという見方もあり得るのではないか。


 というわけで、私個人の考えからすれば、①、②といった公益面でのメリットもあるため、公務員こそタワマンに住むべきではないか、とも思うのですけど。 


 少し付言します。公務員が都心・近郊タワマンに住むことの厚生経済学的効果についてですが、グロスの高い物件を購入することで、月々の可処分所得が圧縮され、本来小売業などに再配分されるはずだった富が地代に流れることで全体として国富を減少させるのではないか、という意見もあるかと思いますが、それについては、


 職住近接による業務効率の向上およびコストの削減によって、相殺されるどころか、遥かに大きなお釣りがくると思います。災害時における迅速な応召に加え、平時においても、通勤手当の削減と、分譲マンションを購入することで家賃手当を支給する必要がなくなるわけですから、これもカットできる。


 トータルで見れば、可処分所得の圧縮による消費減少によるマイナス効果を遥かに上回る行政コスト的なメリットがあると考えます。また、都心部の土地の高度利用促進という観点からしても、労働者がタワーマンションに住み規模の経済のメリットを享受することには経済的合理性がありますよね。


 以上の観点から、私は公務労働者がタワーマンションに住むことを勧めているのですけど、これはなかなか理解を得にくい考え方だとも思います。タワマンというラグジュアリーな希少材を公僕が所有することに対する心理的反発があるからだとも思いますが、客観的分析を欠いた見方がまかり通っている。こうした現状に対して、少し違った見方もできるのではないか、と思った次第です。働き方改革と、それから、河野大臣主導で進められている行政改革によって、公務員のライフスタイルもこれから変化していくことが予想されますが、厚生経済学的観点から、客観的に、現状の住宅市場を見回してみた時に、はたして公務労働者が都心から距離のある郊外に戸建てを建て、長い時間をかけて通勤することが行政コスト的に見て合理的なのか?という観点は必要だとも思います。

 

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