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ブランドメッセージを誰にどう伝える?東京工芸大の取り組みを機に考える、大学ブランディングの4つのアプローチ

新型コロナが5類になり落ち着きを見せたと思ったら、次は生成AIが社会を揺るがす大きなトピックとしてあらわれました。近年、立て続けに、大学や大学教育とは何かを問い直す出来事が続いています。こういったタイミングだからこそ、自分たち大学が何者であり、何をめざすのかといったことを、あらためて考え、具体化していく必要があるのかもしれません。

今回、見つけた東京工芸大学の「ブランドタグライン」と「ブランドストイトメント」の制定はまさに、これに通じる取り組みです。とはいえ、どういうスタンスでメッセージをつくり、誰に伝えるのが正解なのでしょう。いろいろと事例を見ながら考えていくと、けっこうバリエーションがあるように感じました。

未来を見据えてつくられた言葉とムービー

では東京工芸大学がどんな「ブランドタグライン」と「ブランドストイトメント」をつくったのかから見ていきましょう。「ブランドタグライン」は、「TECHNOLOGY × ART」とシンプルかつ骨太です。この言葉に込められた意味は「ブランドストイトメント」で紐解かれており、そこで書かれている内容を端的にいうと、自分たちがめざす教育についてです。

東京工芸大学ブランドステートメント(東京工芸大学HPより)

さらにこのステイトメントをプロモーション動画にも落とし込んでいます。ちなみに動画は、卒業生の映像作家が監督・撮影・編集を担当し、制作チームには卒業生や学生を中心に構成されているのだとか。ブランドステイトメント(声明、宣言)というと、その言葉のもつ格調高い雰囲気もあいまって、文章として世に出すもの、というイメージを強く持っていました。でも、現在のインターネット環境や、私たちの情報接点を考えると、動画も一緒に出すのがマストな気がします。それは伝える機会を増やすという意味もありますが、情報量が圧倒的に動画の方があるので、正しく伝えるという意味でも有用なはずです。

ステイトメントの伝え方は大きくわけて4パターン

今回の東京工芸大のブランドストイトメント以外にも、いろんな大学がブランドステイトメントやブランドメッセージといったものを発信しています。これら言葉を一括りにいってしまうと、自らが自らを規定するための言葉です。この言葉を誰に向けて言うべきか、誰に伝えることで、より意味を成すのでしょうか。これまでの経験+ざっとリサーチしつつ考えてみました。

そこで出てきたパターンは、大きくは4つです。一つは、社会に向けて伝えるパターン。これが一番多そうなのですが、社会ってやたら広くて対象が曖昧なんですよね。結果、メッセージが漠然としてしまいがちです。ただ社会に宣言する(してしまう)ことで、自分たちはやらなければいけないという気持ちを、学内関係者に感じさせることができます。今回の東京工芸大のものは、このパターンに分類されるように思いました。

次に考えられるのが、高校生に向けてです。このパターンのものは入試広報の意味合いが強く、高校生に語りかけるような言葉遣いが多い。あと、将来的な話ではなく、現在の自分たちの在り方(というか姿勢や強み)を表現しているのが特徴だと感じます。そういう意味では、自分たちを規定してはいるけど、何かを変えるための施策とは少し違うのかもしれません。あくまで一例ですが、京都橘大学のものは、このパターンに当てはまりそうです。

学内の人たちも伝えるべき大切なターゲット

3つ目は、ブランドをつくる当事者たち、つまり学内関係者(教職員)に伝えるパターンです。最初に挙げた社会に伝えるというのも、社会に伝えるように見せて、実は学内関係者に伝えているとも言えるのですが、より直接的に伝えるアプローチになります。自分たちが(これから)ブランドをつくるという意味では、このやり方が王道なように思いますが、学外に向けた広報活動ではないので、やや地味な活動になるというのが難点といえば難点です。こちらもあくまで一例なのですが、駒澤大学の取り組みがこれに該当します。

教職員に語りかける口調が印象的(WHAT IS OUR BRAND? 駒澤大学ブランドページより)

最後は、学生に向けて発信するというやり方です。卒業生こそが、その大学のブランドを体現している存在ともいえます。そのため学生のうちに、その大学の在り方をしっかり理解しといてもらえると、卒業後、より強く、正しく、ブランドを社会に伝えることにつながります。なお、この活動も3つ目のものと同様、インナー向けの活動になるので、地味といえば地味なのですが、アプローチとしてはぜんぜん有りです。武蔵野大学のブランドメッセージは、この考え方が色濃く出ているように感じました。

ステイトメントを最も効果的な伝える方法とは?

つらつらとパターン化して書いてみました。1つ目のパターンは、ブランドを「伝える」と「つくる」の成分がおおよそ7:3くらい。2つ目と4つ目は、ほぼ「伝える」にふってしまったアプローチ。3つ目は、逆に「つくる」に振り切っているのかなという印象です。ものすごく、ざっくりとした印象ですが…。

では、どのやり方が効果的かというと、これは特段これがいいというのはないように思います。ただ、パターンによって割かなければいけないリソースが変わるので、そこは一つの判断する指針になるかもしれません。1つ目と2つ目は、社会にある程度しっかり伝えないと意味をなさないので、前提として広告費がかかります。3つ目と4つ目はインナー向けの施策なので、費用という意味では抑えやすいけど、長期的にやってなんぼになるので、学内リソースをある程度割く覚悟が必要です。

何にしろ、大学が置かれている状況や、やりたいことによって、やるべきことは変わります。場合によってはここに挙げたものではないアプローチの方が有効というのも十分に考えられます。とはいえどんなアプローチを取るにしろ、自分たちの在るべき姿を規定するのも大事ですが、それを実践ないし実現するうえで、誰にどう伝えるのが有効か、というのも合わせて考える必要があります。そして、誰にどう伝えるかが理解できてこそ、効果的な表現やプランに落とし込めるように思うのです。

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