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つまりこれって王者の戦略?学問や業界の魅力を高校生に伝える取り組みの意義とメリットを入試広報の視点で考える。

大学の学外に向けた取り組みは、公開講座以外にも、聴講生制度や科目等履修制度、公開授業など、いろいろなものがあります。今回、見つけた流通科学大学の取り組みもそんな一つです。この取り組みは、学生たちと一緒に授業が受けられるプログラムで、対象は高校生なのですが、こういうテーマで高校生を呼ぶのかと面白く感じました。今回、この取り組みを例に、高校生向けの授業公開についていろいろと考えてみたいと思います。

流通科学大学の取り組み名は「キャリアアップセミナー」。キャリア概論やキャリアセミナーではなく、キャリア“アップ”なんですよね。つまり、字面から意味を読み取るなら、何かしらのキャリアを歩んでいる人が、それをさらに上げるための取り組みということになります。ここから在学生ではなく卒業生向けの取り組みなのかな?と思ってリリースを読み進めたのですが、そうではなくて、というより、それどころか在学生と高校生を対象にしたプログラムだということで興味を持ちました。キャリアは職歴という意味合い以外に、生き方・人生みたいな意味でも使われるので、高校生にそれを考える機会を提供する、という意味ではそう間違いではないのかもしれません。

で、このプログラムの内容なのですが、こちらは公式サイトに載っていた言葉を借りると「最先端の流通・マーケティングを実践する実務家からの講義を聞き、⾃らの考えをディスカッションなどを通じて深め、発信する双⽅向の学習プログラム」とのこと。登壇者は、ネスレネスプレッソ、ダイキン工業といった大企業を中心に、産官学の実務家たちです。実際に実務家の話しを聞き、流通科学大学の学生たちとディスカッションするのは、高校生にとっては良い刺激になりそうです。でも、大学生にとってはどうでしょうか。今回のテーマがキャリアということを考えると、ディスカッションの相手が高校生というのは、あまり大きな魅力にならないかもしれません。

おそらく高校生も受講できるというのは、大学生のためではなく、高校生のことを考えてだと思います。でも、ここで疑問に思うのですが、高校生を優遇したとしても、流通科学大学にとってそんなにメリットがないと思うんですね。この取り組み自体、大学の魅力を伝えるのではなく、業界や職業の魅力を伝えるものになります。うまくその魅力が伝わり興味を持ったからといって、流通科学大学に行こうとはなりません。その分野で、自分のいける大学ないし、より高みをめざそうという気持ちが起こるわけです。

流通科学大学は、関西圏の大学の序列でいうなら、少なくとも今のところは、関関同立や産近甲龍と名を連ねる大学ではありません。高校生の段階でこういう取り組みに参加しようと思う人はそれなりに意識が高く、心に火がついたなら、高偏差値の大学をめざそうとする可能性が高まります。そうなると、流通科学大学にとって、この取り組みはメリットどころかデメリットになる可能性も十分にありうるわけです。よりマクロな視点で身もふたもないことを言ってしまえば、高校生や低年齢層に向けて学ぶモチベーションを焚きつける取り組みは、王者の戦略であって、上位校にとってしかメリットにならず、下位校にとってはメリットどころか害悪になるかもしれない、というわけです。

でも、ですよ、ここからさらに考えを一周まわして、そんなことは百も承知でやっているとしたら、だいぶとカッコよくないですか?極端な話、入試広報云々を別としてやらなければいけないと考えてやっている取り組みなら、それはその大学の信念に基づいたものです。それって入試広報ではなくブランディングですし、もしかしたらそういったテクニックとはかけ離れた高尚なものなのかもしれません。

……と書いてはみたものの、学問の裾野を広げたり、業界の魅力を伝える取り組みというのは、けっこうな数の大学がやっているので、あまり深く考えずに取り組んでいる大学も多いのかもしれません。そういった大学は、大学の立ち位置によって意味合いが大きく変わるということを意識して内容を設計すると、より価値のあるものができるように思います。たとえば、偏差値にかかわらず、うちだからこそ学べることを前面に押し出すとかでしょうか。

取り組みとして非常に魅力的なので、自大学のメリットになるやり方を開拓していければ、よりこういった取り組みが活性化していくのではないかと勝手に思ったりしています。流通科学大学のキャリアアップセミナーの“アップ”という表現が気になるというだけで書きはじめた記事ですが、何かぜんぜん違う話に着地してしまいました……。いや、うそ、これが書きたかったんです、たぶん。

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