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影響するのは教育だけじゃない?近大の取り組みから考える。大学による生成AI活用のリスクと難しさ

第170回芥川賞の受賞者がChatGPTを一部使って小説を書き上げたことで話題になっていますが、生成AIの発展はほんと目覚ましいものがあります。今回、見つけたプレスリリースはそんな生成AIの大学での活用についてです。近畿大学の取り組みなのですが、今後、こういうのが増えていくのかもしれませんね。

生成AIを使って大学職員の業務効率を上げる

今回のリリースは、近畿大学でChatGPTに使われているAIモデル「GPT-4」を使った生成AI活用プラットフォーム「Graffer AI Studio」を試験導入したというもの。このプラットフォームを活用することで、情報検索や文章作成などの手間が削減され、大学職員の業務効率化が期待できるようです。

大学職員の業務は、学生たちの個人情報を大量に扱うため情報が流出しないように細心の注意が必要です。生成AIを専門的に扱う企業と組むようなので、ここらへんの対策もしっかりされているように感じます。またリリースには、プラットフォームの導入だけでなく、提携先の企業が「中長期的に職員一人ひとりが生成AIを活用していくための研修や人材育成コンテンツの提供まで包括的に支援」すると書かれていました。たしかに、生成AIを単に使うのと、効果的に使うのでは、天と地ほどの差があります。今後、生成AIの活用方法はリカレント教育の熱いテーマになるのかもしれません。

一律の答えはない?学生を成長させるための生成AI活用法

近畿大学取り組みを見て、あらためて感じたのですが、一般企業に比べると、大学で生成AIを導入するのって、けっこうややこしい気がします。というのも大学は、職員、学生、研究者という、立場も考え方もやるべきことも違う3種の人たちがいる場だからです。

職員については、今回の取り組みのように、一般企業と同様、業務効率化に全振りした使い方で問題ないように思います。できるだけ手間や時間を減らした上で、良い成果物をどう生み出すか、価値あるインサイトをどう見つけるか、これができればオッケーなはずです。

でも、学生と研究者は深く絡み合っていて一筋縄ではいかなさそうです。まず学生の場合、いくら良い成果物(たとえばレポートとか)を出したとしても、それによって当人が学び成長できていないと、何の意味もありません。そういう意味では、目的は成果物ではなく、それを生み出す中での成長です。じゃあ、プロセスを重視すればそれでいいのか?というと、これも難しい。もちろんそのプロセスを経ることで、学生が成長することは予想できます。でも、いち早く成果物をまとめてしまい、その先について考えた方が、学生が伸びる可能性だってあるわけです。これってきっと一律にどちらかが正解なわけではなく、テーマや学生の意識&知識レベルによって都度、正解が変わるように思っており、そこに難しさがあるように感じます。

生成AIは研究者の時間を奪うネガティブなテクノロジー?

続いて研究者です。こちらはまた状況が違っていて生成AIが使える場面がけっこう限られている気がします。だって、生成AIに質問して答えが返ってくるなら、もうそれについて研究する意味なんてないから。そのため使用するのは、データ処理など研究をするための前準備であったり、研究以外のシーン、たとえば書類作成や授業の準備みたいなところに利用されるのかなという気がします。

これだけだと研究者の活用法は、職員とニアイコールな気がしますが、まだあるわけです。というのも、研究者は教育者でもあるので、教育でどう使うかも考えないといけない。これってつまり、学生がどう活用するべきかと裏表の話です。これについては、現在のところほとんど答えがないので、真面目に向き合うとすごく時間がとられるように思います。そうなると、生成AIは時短に役立つどころか、研究者(というより教育者)にとっては、時間を取られるネガティブなテクノロジーになる可能性も、今の段階ではあるわけです。

さらに、です。ここまでに書いたのは、教育での前向きな活用法の話だったのですが、実際は生成AIを不正行為に使う学生も出てくると思います。その対策や取締にもそれなりのリソースを割く必要が出てきます。

生成AIをどう使うかは、大学教育だけの問題ではない

大学と生成AIについての話は、往々にして教育に焦点を当てて論じられがちです。もちろんポテンシャルがあり、脅威にもなりうるので、真剣に話すべきだと思います。でも、教育の担い手である教員たちの時間も体力も有限なので、答えがないものに無限にチャレンジさせると、必ずシワよせがでます。どこまで教育の場で活用させるのか、また活用をどれくらい推奨(もしくは抑止)しようとするのか、大学がバランスを見ながら上手く音頭をとっていく必要があるはずです。

今後こういった難しい舵取りを大学が迫られるのは、火を見るより明らかです。であるなら、今回の近大のように、まずは比較的ノーマルな活用法で事足りる職員からリテラシーを高め、備えておくというのは有効な気がしました。

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