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商品開発と起業をつなぐもの。近畿大学の取り組みから気づく、実学教育に足らなかったワンピース

働くうえで役立つスキルや知識を、実社会に近い環境で身につけるというのが、現在の大学教育に求められているものの一つだと言えます。この究極的なものが学生ベンチャーのように思いつつ、それ以外にもいろいろな取り組みが、いろいろな大学で展開されています。

今回、見つけた近畿大学の取り組みも、そんないろいろなうちの一つ。よくある取り組みではありますが、ちょっとだけ視点が違うんですね。この少しの視点の違いによって、実学教育に新たなシナジーが生み出せるのかも?と勝手な期待を感じたので、今回はこれについて取り上げていきます。

学生たちによる商品開発、ではなくブランド立ち上げ

はい、ではどんな取り組みかというと、野球用グローブの制作過程で出る廃棄レザーを使ってコースターをつくる、という取り組みです。学生たちが企業とコラボをして商品開発を行うのは、多くの大学で頻繁に行われています。でありながら、今回のものが目を引いたのは、商品開発をしました、ではなく、学生発レザーブランド「Pothos.(ポトスドット)」を立ち上げたという打ち出し方をしていたからです。

ちなみに、学生たちによるブランド立ち上げはあまり聞かないものの、ゼロではありません。私が知っている範囲だと、東京情報大学に「Tuis café」というブランドがあったりします。

題材が同じでも、目標を変えるとプロジェクトが変わる

ブランド化する場合、商品やその背景を深掘りして、どんな価値が提供できるのかを脳みそがカリカリになるまで深掘りする必要があります。そして、その価値を商品やマーケティング活動で表現していくことが求められます。

今回の近大の取り組みに当てはめるなら、“レザーの”コースターの開発・販売であれば商品開発で、“Pothos.の”コースターの開発・販売であればブランドの立ち上げになるわけです。じゃあ、この二つの違いは何かと関係者に問いかけたときに、明確な答えが出て、その答えが商品から伝わってこなければ、商品の開発はできていたとしても、ブランド立ち上げとしては失敗です。そう考えると、同じような題材で、同じような活動をするにしても、目標設定を変えることで、学べることがけっこう変わってくるのかもしれません。

商品開発と学生ベンチャーをつなぐもの

もう一つ、今回のブランド立ち上げの取り組みを見て思ったのは、ブランド立ち上げは、商品開発と学生ベンチャーの橋渡しになる活動になるのではないかということです。

これまで私のなかでは、商品開発と学生ベンチャーってかなり距離があって、大きな意味では実践的な学びの範疇にあるけど、この二つをつなげて考えることはありませんでした。でも今回、ブランド立ち上げについて考えてみて思ったのですが、自分たちが提供する価値を定義して積み上げ、社会に浸透させるのって、商品もそうですが企業活動そのものです。もちろん、学生ベンチャーを起ち上げるには、他にも考えるべきことが山ほどあります。とはいえ、自分たちの取り組もうとしているビジネスを極限まで深掘りして、企業の理念やビジョンを定義づけるというのは、まずやるべきことであり、最も大事なことだといえます。

いきなり学生ベンチャーをやろうといっても、10人のうち1人も手をあげないでしょう。しかし、商品開発、ブランド立ち上げ、学生ベンチャーと、段階を踏んでいけば、ハードルの高さに抵抗を感じる人は減っていくはずです。やりたくない人にやれという必要はないものの、やりたいけど自信がない、興味があるけどやり方がわからない学生のために、こういったグラデーション的にチャレンジできる環境を用意しておくっていうのは、すっごく大事だと思います。

大学の専門教育は、社会ニーズに応えるために行うという視点はもちろんありますが、理想としてはありたい社会をつくるために、どういう教育が必要なのかという視点に立つべきだと思っています。そのためには、知識やスキル、マインドの育成も大事ですが、どうすれば社会に働きかけられるのか、という視点や手法を伝える必要もあります。学生ベンチャーはそのままズバリ、社会への働きかけを学ぶ場になります。

大学によっては、研究者や特定の職業人の育成がメインミッションになることもあり、すべての大学が全力で起業家教育をやるべきだとは思っていません。だけど、”教育をもって何かを成す”ということを本気でやろうとするなら、程度の差こそあれ、こういった教育は避けては通れないはずです。理想の社会をめざす大学人にとって、今回の気づきが何かしらのヒントになるといいなーと勝手に思っています。

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