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時をかけるおじさん 12 / ボケキャラでいてほしい

認知症と診断を受けたものの、二ヶ月に一度通院して薬をもらうだけの状況が、父への十分な治療だとは思えなかった。母が大変なこともわかっていたし、福祉的サポートが必要な時期だと感じてはいた。母ももちろん承知であったはずだけれど、母の想いは娘が思うよりも複雑だった。何よりも「旦那を介護する」というスタンスに、まだ慣れていない、うけいれられない、それが根底にありながら、目の前にある日々をなんとかこなすのみ。そして父は自分が病気でもない、ひとりでなんでもできると思っている。そもそも父は、同世代の人や年上の人があまり好きではないのだ。「リタイヤしたひとたちで集まってお茶を飲む」「カラオケをする」「ボランティアをする」。そういうことに対して偏見が物凄く、到底そんなことをしたくはないといった態度だった。気持ちはもちろん分からなくないからこそ困るのだ。

決して簡単ではない悩みを抱えながら、悪い人は誰もいない、ただただ日々は過ぎて行き、父の病状は進行していった。

                    2017年2月 父の日記より

散歩のときにお酒を飲ませると厄介なことになってはいけないからと、お酒はよく制していた。な〜んでだめなんだよぉ、ブゥ。と口を尖らせる父が書いたものでしょう。娘は多分トイレか何かに行ったんだと思う。

僕はボクという字が書けなくなりました。っていいボケだと思うので今後私も使ってみたいなと思っている。

認知症の症状は、まあざっくりいえば「ボケている」わけだけれど、お笑い的な意味でも父はよくボケている。とはいえ基本的には多分狙っていないわけだから、まあキャラクターだというしかない。ボケキャラ、くらいまででいてくれていれば楽しいひとなんですけどね。

文 / ほうこ

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