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時をかけるおじさん 13 / 母が入院しちゃったよ


2017年5月のある日、母からLINEがきた。どうやら具合が悪いという。
日常的に連絡はよくとっていたが、母から体調不良を訴えられることはあまりなかった。
文面からなんとなく嫌な予感があり、ちょうど出先から帰る途中だったので実家に寄って帰ることにした。
普段はこまめに返信が来るのに反応が遅い。LINEの既読もつかない。色々なことで心配になり家につくと、顔色も悪く苦しそうな母。単なる風邪、というようなものではなかった。
救急車を呼ぼうかと話すが、痛みと苦しさのピークは越えたと言うしで、翌日まで様子を見ることにする。私は泊まり、少し様子を見た。
翌日は比較的顔色も良く、自分の自転車で隣駅の病院まで向かった母。
そして来た返信は、「即入院になりました」というものだった。

診断は、胆管結石。入院してからは大きな痛みはないようだったが、体調が悪い状態で家にいるとひどくストレス、という事情もあり二週間ほど入院することになった。この間、病院にいる母の様子を見に行く、多少の買い物、洗濯物のやりとりなどのことはあったものの、基本的に安全な場所にいる母よりも、誰もいない家に一人でいる父のケアをすることにほぼ頭がいっぱいだった。三兄弟で連携して父のごはんを毎食手配し、夜はなるべく誰かがいるようにするというシフトを組み、叔母や両親の長い付き合いである友人にも声かけして頼み、我が家の緊急サポート体制がしかれたのであった。
大きな症状のなかった母は、久々に父から完全に切り離されて少し気が楽だったようだった。とはいえ身体が鈍ってしまうからと病院内で階段の上り下りなどをしたりした。そういうところ、ほんとうに母はすごい。

とはいえ、「母が入院した」という事実は父に少なからずショックを与えた。入院中とにかく周囲はばたつき、兄弟のみならず、両親の長年の付き合いである友人なども含め入れ替わり立ち替わり人物が現れ、自分をサポートしに来たという。そして母がいない。「なんでいないの?」「入院してるでしょ」「どこに入院してるんだっけ」父とはこのやりとりを繰り返す。お見舞いに行くと父は言うが、到底一人ではたどり着けない。というか、迷子になられても困るし。。と、病院も部屋番号もぼんやりと伝えぬまま、なだめすかす。可哀想だが、父を病院まで送り迎えする余裕は誰にもなかった。

ある日の夜中、突然父が話しかけて来た。「お母さんはどうしてるんだっけ?」「入院してるよ」といつも通りのやりとりをすると、なんだか少し様子がおかしい。聴くと、どうやら話の流れの中で、母と、自分の母(祖母)を混同しているようだった。祖母は2012年に他界している。
あの頃みんなに余裕がなくバタバタしていて、父は完全に置いてけぼりで、混乱していた。

文・絵 / ほうこ

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