プレスリリースの文章は志賀直哉に学ぼう。

広報パーソンにとって文章力は不可欠です。僕も一応のこだわりをもって書いているつもりですが、なかなか難しいものです。

自分の文章や言葉を磨くヒントを求めて、谷崎潤一郎の「文章読本」を読みました。小説家の文章指南が仕事の文書にどこまで役立てられるかは半信半疑でしたが、結論から言えば読んで正解でした。(ちなみに僕にとって最初の文章の教科書は、『理科系の作文技術』(木下是雄、中公新書)で、谷崎とはおよそ対極にいる物理学者の著書でした。とてもいい本です。)

特に印象的だったのが、志賀直哉の「城の崎にて」を引用した後の次の箇所です。

こんな風に短く引き締め、しかも引き締めたために一層印象がはっきりするように書けている。「華を去り実に就く」とはこう云う書き方のことであって、簡にして要を得ているのですから、このくらい実用的な文章はありません。されば、最も実用的に書くと云うことが、即ち芸術的の手腕を要するところなので、…

また別の箇所では次のようにもあります。

簡潔な美しさと云うものは、その反面に含蓄がなければなりません。

関心のある方はぜひ谷崎潤一郎の「文章読本」を読んでいただければ良いかと思います。

さて、そんなことでどうしても志賀直哉が読みたくなり、早速『小僧の神様・城の崎にて』を読んでみました。するとたしかにこれが読みやすく、余韻を残すのです。描かれるシチュエーションは一般庶民の人生のほんの一部分、等身大で日常的なシーンでありながら、読みやすいのはもちろん、読み手を引き込む読ませてしまう魅力・引力を秘めています。

表現したい意味や情景を具(つぶさ)に観察し、文章では言葉を本当に意味のあるものだけに削り、劇的に描いている。まるで光と影の生きたレンブランドの絵画のような、あるいはすべてを描かない水墨画のような、読み手の想像力を信用した文章になっていると思います。

描くべき世界を選び、書く。簡潔に、美しく。

ほら、プレスリリースにぴったりではないでしょうか。

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