プーチン大統領の権力基盤はそれほどでもない?

 北方領土に関して、ロシア国内の保守的愛国者によるデモが行われたそうです。
https://www.sankei.com/politics/news/190120/plt1901200011-n1.html

 現在、日露両政府による外交交渉が、北方領土(ロシア側の言う「クリル諸島」)の引き渡し交渉ではないか、ロシアの領土を日本に割譲するなんてもってのほかだ、という主張を行うためのデモだそうです。
ただ、そもそもロシア政府は上はプーチン大統領から首相も外相も含めて誰一人、北方四島の全部ないし一部の返還について日本政府と交渉中である、なんてことは言っていないわけなんですが、何でこんなデモがロシアで起きているんでしょう?

 日本側が戦後からずっと北方領土の返還を要求していて、1956年の日露共同宣言における「平和条約締結時に歯舞・色丹の2島を変換する」という話も、デモ参加者は知っていることとは思いますが、しかしそうは言っても、絶対的な独裁者であるはずのプーチン大統領が何も言っていないのにデモ活動が行われる、ということに疑問というか違和感を覚えます。

 なぜデモが行われたか、という点についてうがった見方をすると、領土問題がある国と交渉をすること自体を問題視しているのかも知れません。
ウクライナ政府とはクリミア半島やウクライナ東部の問題をめぐってはそもそも平和的なやりとりなんか行っていませんし、ロシア内のチェチェン共和国においても同様です。

 そんな「強い」はずのロシアがなぜ、第二次世界大戦の敗戦国である日本と外交交渉を行うのか、という怒りによるデモなのか。ここには、日本の背後にアメリカがいる、北方領土を返すとそこに米軍基地が作られてしまう、という恐怖もあるのかも知れません。たとえ2島でも返還してしまうと、そこを通ってオホーツク海に米軍の軍艦が入ることを防げませんから。今はクリル諸島、間宮海峡、宗谷海峡で防げます。

 あるいは、ロシア国内における愛国主義者、ナショナリスト、国粋主義者などが増えているのかも知れません。こういった人たちが増える原因は、一般的には外国からの圧力に対抗するためだとか、経済的な苦境を外圧によるものだと政府批判から目を背けさせるため、といったことが考えられます。ウクライナ問題からアメリカやEUによる経済制裁がロシア経済の不安定化を招いているのは事実でしょうけど、そもそも資源に頼りすぎている点や政商優遇なども理由にあるはずですが、それを打開するには外資導入しかないわけで、しかし経済制裁のためにそれはできないし、そもそも外資を大幅に入れると独裁政権自体が不安定化しますから。

 さらにうがった見方をすれば、現政府に対する不満を表明する方法として、愛国的主張を行うデモなら取り締まられることはないはずだ、という理屈によるのかも知れません。

 かつて中国で起きた反日デモでは当局にコントロールされている部分はあったにしても、政府に抑圧されているという日常的な不満のはけ口として、「愛国無罪」という免罪符がある反日デモで暴れたという側面があったはずです。

 それと同じように、プーチン政権に対する直接的な批判を行うと大変なことになりますから、その代わりとして、ロシアそのものを大事にしていますよ、ロシアが大好きですよ、ということを前面に押し出せる「領土返還反対」デモなのかも知れないのではないでしょうか。

 さらにさらに、無理矢理な見方ですが、実は水面下で実際に返還交渉が結構進んでいて、それをキャッチした政府内の非主流派が主流派を潰すために、民間レベルにちょっとリークして領土返還自体を潰そうとしているとか。これはあまりに突飛な発想ですかね。

 なんにせよ、ロシア国内におけるプーチン体制というのは国外から想像しているほど、上意下達、一枚岩ではなく、民衆レベルで逼塞しているわけではなさそうです。


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