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元塾講師から言わせてもらうと、あなたの講義はわかりづらいです。

私の会社で、先日久しぶりに講習がありました。講師はこの記事に登場する先輩社員です。


この方から講習を受けるのは初めてだったのですが、相当わかりづらかったので、そのわかりづらさを分析し、逆にどうしたらわかりやすくなるのかを考えていきたいと思います。


1.どんな講習が行われていたか


詳しい内容は私の仕事内容に関わってくるので伏せますが、ざっくり説明すると、「仕事に必要な知識を今より多く身につけて、ステップアップする」ための講習です。
要は、「これを知らなければ仕事にならない知識」を身につけた新卒社員に対して、「これを知っておくとより良い仕事ができるという知識」を教えるものです。

レストランのホールであれば、料理に使われている食材の原産地やそのお店でこだわっている調理法
ホテルのフロントであれば、基礎的なレベルを超えた周辺の観光地や主要なビルの名前と営業時間
営業職であれば、より相手を満足させる接待方法
英語の講師であれば、単語の語源やニュアンス、英語圏の人が実際どのように用いるか

といったイメージです(なお、ほとんどやったことがない仕事なので、実際と異なっていたらごめんなさい…)

受講者のニーズはこのような「ステップアップするための知識」です。
講師はスライドを用いて説明し、受講者の手元には資料が用意されていました。しかしこのスライドは、投影機のトラブルでまともに機能していませんでした。講師曰く、手元の資料で十分とのことでした。
予定されていた講習の時間は2時間でした。

[講習のサンプル]


さてここで、その講習を再現してみたいと思います。前述したように、実際の内容は伏せ、代わりに、私がある程度詳しく、読者の皆様があまり、もしくは全く知らなそうなものを講義したいと思います。

スライドは用いられていなかったので省略します。
また、実際は口頭で行われていたものを文字で再現しなければならないため、このわかりづらさがきちんと伝わらないかもしれませんが、何もないよりはマシだと思ったので、ここに掲載することにします。
3分あれば読める内容です。

手元資料はこちらになります↓

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では、講習スタートです。

いまから中央線の主要駅について説明していきたいと思います。
まずは東京駅。東京駅は1・2番線から発車します。いろんな路線から乗り換えできるのでよく使います。
東京駅で気をつけなければならないのはまず、新幹線からの乗り換え距離が遠いということ。東海道新幹線で京都から来ました 中央線に乗り換えて例えば立川に行きたいです 乗り換え時間は3分です。ってなるとかなり厳しい。やっぱり遅れとかの余裕を持って10分はほしい。まあ品川で山手線に乗り換えて新宿から乗る方が多いとは思いますが やっぱり乗り換え回数は少ない方がいいという方もいらっしゃいますからね あと東京駅で気をつけなければならないのは特急ですよね。中央線ってどんな特急が走ってるか知ってますか? 
はい、代表的なものでいえばあずさかいじ、それからはちおうじやおうめなんてのもありますね。人によっては成田エクスプレスも含めるでしょうね。で特急の何が気をつけなければならないかって、中央線の特急はほとんど新宿駅発着で東京駅には来ないんですよ。まあはちおうじとおうめは東京駅ですけど、他はほとんど新宿駅利用です。8時のあずさで甲府に行きますって言って東京駅に7時50分とかにいたら一生乗れないですからね。あともしNEXに乗りたい場合、ホームはここじゃなくて総武線の地下ホームになるので注意が必要です。ちなみにNEXはコロナの影響でほとんど運休してますけど高尾発着は走ってるので覚えておいてもいいですよ。
次は新宿駅いきます。ここに限ったことではないんですけど、例えば新宿から立川に行きたいってなったとき、みなさんだったらどうします?快速に乗りますか。時間帯によってはそれでいいかもしれません。ただ何がまずいかって、快速は遅いんですよ。快速って平日は中野から先は全部の駅に停まるんですけど、その間に中央特快や青梅特快にだいたい抜かされますからね。まあ阿佐ヶ谷とか武蔵境から立川にいくなら仕方ないですけど、それでも三鷹や国分寺で特快に乗り換えたほうが早いです。人によっては特急で行く人もいるでしょうね。特急なら1駅で着きます。でその特急なんですけど、新宿駅はほとんど9・10番線から出るのでそれも注意です。昔は今の5・6番線が特急のホームでものすごく遠かったんですけど今は快速と隣同士なので便利になりましたね。ちなみに新宿駅はホームが3つあって、真ん中が今行った特急ホーム その両隣に上下線のホームがあるんですけど、1つの方面に線路が2本あるんですよ これあんまり見ない形なんです やっぱり新宿駅ってものすごく利用者多いんですね しかもラッシュ時は電車の本数が多いから 線路一本だとさばききれないんで、同じ方面の電車を2本の線路に交互に入れることで運転本数を増やしてるんですよ
すごい、二つの駅でかなり時間くっちゃいましたね。それだけ中央線って主要な駅が多いんですよ 私もいろんな駅使いますし。
そしたら中野駅やります。まあ中野は快速ってことで言えばあんまりいうことないんですけど 強いていうなら下りのホームで快速の隣に来る各駅停車が千葉方面とか西船橋方面ってことですかね ただ平日は快速が中野から各駅停車になるから乗り換える必要もないですけどね。もちろん土日は高円寺とか阿佐ヶ谷は通過するので、その場合はホーム2つ隣の1番線の各駅停車か1つ隣の3番線の各駅停車に乗り換えてください。間違っても2番線とか4番線の電車に乗らないでくださいね。乗ったら全然違う方に行っちゃうので。逆の場合も5番線到着なら1つ隣の8番線の快速に、これも隣の6番線は下りの快速なので違いますよ 4番線到着なら2つ隣の同じく8番線の快速に乗ればいいわけです。
やっぱり終わらなかったから、三鷹とか立川はまた日を改めて説明しますね。
何かわからなかったことあったら気軽に聞いてきださいね


2.どうしてわかりづらいのか


・話し方がわかりづらい
文字だと伝わりにくいのですが、この人は講義が白熱するとマシンガントークになります。お笑い芸人のトークなどと違い、講義とは「わからないものがわかるようになる」ことを前提としているため、話される内容は「わからない」ものです。そのため、早口だと聞いてる人からしたら、ただの音の羅列になってしまい、伝わらなくなります。
講習や授業は時間が限られていること、また塾の授業だと緊張感を持たせるためにスピーディーな展開にする必要があるなどありますが、抑揚をつけるなどして工夫した方が良いです。
 

・ビジュアルがわかりづらい
講習や授業は講師による講義と、それを補う資料で成り立ちます。当たり前ですが、資料は講義内容に沿ったものでなければなりません。
ここで気を付けなければならないのが、一見講義内容と関連しているように見える資料が、実は関係ないことばかり書かれている、というケースです。
資料に講義内容が全て載っていたら講義を聞く必要は無くなりますが、だからといって重要な点がことごとく載っていないとなると、受講者は講師が話す内容ばかりに注意を払うこととなり、負担が増大します。わかりにくくなるのは言うまでもありません。

サンプル講義の内容は主に中央線の駅の構造や使い方についてですが、資料は中央線の駅一覧と停車駅表なので、駅そのものの情報が含まれていません。なので使い物になりません。


今回の場合、スライドもまともに機能しなかったため、なおさらでした。


・知識量の違いに気づいていない
受講者と講師との間で共通認識になっているだろうという事柄を、実は受講者が知らないということはよくあります。講師は事前に、もしくは講習中に受講者の反応を見ながら、知っておくべきことなのに知らないという事柄を汲み取り、そこから教えていく必要があります。
今回で言えば、「NEX」(ネックスと読みます)というワードです。これはJR東日本の特急「成田エクスプレス」の略称で、ロゴマークや一部の案内に用いられてはいますが、普段成田エクスプレスなんて使わない!見たこともない!という人は当然知りません。

・必要ではない情報が多い・必要な情報との違いがわかりづらい
講習中の雑談というのは、受講者をリラックスさせる効果があり、適量であれば非常に有用です。しかし気をつけなければならないのが、「必要な情報に関係した雑談」です。
今回の場合、

「でその特急なんですけど、新宿駅はほとんど9・10番線から出るのでそれも注意です。昔は今の5・6番線が特急のホームでものすごく遠かったんですけど今は快速と隣同士なので便利になりましたね。」

の、「昔の〜」からがそれに当たります。この部分は中央線特急の話をしているので今回の内容に直結しているように思えますが、あくまで「昔の」話であって、「今の」中央線には関係ありません。よってこれは雑談になります。
繰り返しますが、雑談は無駄ではありません。しかし、必要な情報に関連した雑談の場合、その話が雑談なのかどうなのかの区別がつかず、受講者はその雑談まで本気で聴こうとします。結果として受講者に必要以上の負担を強いることになります。
もし昔話を雑談として組み込みたい時は、「これは余談なんだけど」「これは別に覚えなくていいんだけど」と、前置きをすると良いでしょう。

・えっ、そうだっけ?
「1つの方面に線路が2本あるんですよ これあんまり見ない形なんです」という部分がありますが、これを図にすると、下のようなホームになります。

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(画像はWikipediaより)

皆さんの中で普段から鉄道を利用しており、なおかつ急行や快速など、各駅停車以外の種別が走っている路線を利用している場合、ほぼ間違いなくこの形式のホームがどこかの駅にはあります。
つまりサンプル講義における、「これあんまり見ない形なんです」というのは間違いなのです。
講師が当たり前のように説明したことが、受講者にとって「え、そうだっけ?」と思わせるようなものの場合、受講者のその一瞬の混乱が、講義を聞くという作業を妨害し、その後の流れから取り残される原因となります。
もし受講者の認識とは異なることをこれから説明しようとする場合、受講者が「え、そうだっけ?」と思うことを前提に、ゆっくり話す、間を開ける、「え、本当?って今思ったでしょ?」と伏線回収のように問いかけるなど、工夫が必要です。もちろん、間違ったことを教えるなど言語道断なので、教える側は事前に講義内容を点検しておきましょう。

・複雑な手順をしれっと説明
中野駅のくだり、ものすごくわかりづらいですよね?
この乗り換えの仕方は実際この通りなのですが、乗り換えるパターンが実際多いので、手順が複雑になります。つまりこの講習の中で「山場」なわけです。その山場を他の部分と同じテンション、スピードで話してしまうと、今までついてこれていた受講者もついてこれなくなります。難しい箇所は前置きで、「ここ複雑なのでよく聞いてください」と言っておいた方が良いです。
特に数字が混ざっているとさらに難しくなるので注意しましょう。

・長い
サンプルの講義を読んだ人の中で、3分で読めた方はいますでしょうか?おそらくほとんどいらっしゃらないと思います。もともと予定していた時間よりも長引くと、聞いてる方のスタミナがもちません。また、その講師に不信感を抱く恐れもあります。
ただ時間配分というのは非常に難しいです。時間配分は事前に講義の練習をしておくといいのですが、その時間をとるのが大変です。ですから私は初めて教えるものの場合、時間を余らせられるような分量にし、本当に余りそうなら補足説明・余談・雑談で穴埋めしています。
時間を余らせて早めに終わるのも良いのですが、塾の授業の場合は別です。なぜなら授業料が発生しているので、早めに切り上げるのは筋が通りません。

・全部終わらない
長引くだけならまだしも、予定していた内容が終わらないとなると、受講者はまた別日に集まる必要があったり、最悪の場合、必要な情報を得られないまま帰されることになります。これでは講習の意味が減ってしまううえに、受講者に余計な不安を与えてしまいます。


3.どうしたらわかりやすくなるのか


さて、ここまで僭越ながら、わかりづらい講習へのツッコミと、どうしたらよくなるのかということを自分流に書かせていただきました。
講習とは、「わからないものがわかるようになる」ことを目的としたものであり、受講者は講師に対して、「この人のこの講習を聞けば、わからないものがわかるようになるのだ」という期待を持っています。
講師はそう思わせている以上、その期待に応えなければなりません。何が言いたいかというと、要は講習とは「わかりやすくなければならない」という当たり前のことです。
わかりやすいかどうかは、受講者が判断することです。なので理想的な講習とは、受講者のためを思った講習なのです。ただ自分の知識をひけらかしたり、話したいように話すのは間違っています。
(実はこの記事を書くきっかけになった先輩社員が同じことを言っているのですが…)


小手先のテクニックも確かに重要ですが、それはあくまで一手段でしかありません。他の記事でも書いたことですが、大事なことは、受講者のニーズを汲み取るということです。ただそのニーズとは、受講者が必要としていることの他にも、受講者の知識量も含みます。何故なら、受講者の知識量を知らなければ、ニーズに応えようにも話が伝わらないからです。

受講者の知識量を汲み取り、講習中もリアクションを確認するなど、受講者と双方向コミュニケーションを取ることで、わかりやすさを築き上げていくのです。講習中に伝わらなかったことは、講習後にフォローしてあげれば良いのです。

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