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働きアリの中にいる「働かないアリ」の存在意義 by長谷川英祐

昔から昆虫の飼育や観察大好きだった。

幼少期は、家の軒先にいるアリによくパンを千切って与えていた。

今年は、我が家にアリがやたらと入ってくる年で、「アリさんは、ほんまによう働くなあ」と思いながら、のんきに眺めていたのだが、妻から「侵入してくる大量のアリを、なんとかして」と指令がくだったので、泣く泣く『アリの巣コロリ』を設置。あっという間に家からアリが消えた。

人間が害虫をみなした対象へのアプローチは、えげつないところもあるが、その知恵比べ自体は興味深い。

さて最近、進化生物学の長谷川英祐さんの著書『働かないアリに意義がある』に興味を持った。

アリやハチは、独特のコロニーを形成するため社会性昆虫と呼ばれている。

ちなみにアリの仲間と見なされやすいシロアリは、夏になると現れるあいつ。漆黒のボディを持ち、カサカサ動き回る虫Gの近縁種である(シロアリも社会性昆虫に含まれる)。

アリやハチは女系社会が多く、そのほとんどが雌で占められているという。

長谷川さんによると、『みなしごハッチ』や『みつばちマーヤの冒険』などで、擬人化したハチの雄が出てくるのだが、あれはフィクションなので、現実的ではないらしい。

アリやハチの雄は雌との交尾を終えると、早々に死んでいくので、我々が雄を目にする機会はほぼないとのこと。

社会性昆虫は、

・勤勉タイプ 2割
・まあまあ働くタイプ 6割
・全然働かないタイプ 2割

に分かれている。

勤勉タイプは2割。全体の利益や売上の8割を、優秀な2割の人間が生み出す『パレートの法則』に通じるものがある。

そして全体の2割がさぼっているのだ。

2割が働かないというデータを提示され「さぼるやつ、多すぎ!」と感じる人がいるかもしれない。

しかし、これも社会的な昆虫による戦略で、働かない2割はいざというときのために力を蓄えている

働かないアリばかりを集めると、その中から勤勉なタイプが新たに2割生まれるのも興味深い。

アシナガバチの女王は働きバチが巣の上で休んでいると、「そんなとこで油売ってんと、はよ働いて来いや!」と鞭打って労働に行かせるそうだ。

「へえ、わかりました」とエサを取りに出かけた働きバチは、女王の目につかない場所まで移動すると、葉っぱの裏で何もせずぼんやりと休み続けることも。

こういったハチは、長谷川さんの表現を借りると「喫茶店でさぼっている営業マンみたいなもの」らしい。このように社会性昆虫は度々、人間臭い行動をとる愛らしい存在だ。

我々、人類は油断するとすぐ自分たちのことを「万物の霊長」とか言い出して、生物全体にマウントをとりがちだが、人間社会がアリやハチの社会に似ているのか、アリやハチの社会に人間社会が似ているのか?

もちろん双方の類似点はかなり多いのだが、先にどちらの社会ができたのかも気になる点だ。

毎日、雑務に追われるとつい近視眼的になるが、カメラをぐぐっと引いてズームで人間社会全体を確認し、自分がどこに位置しているかがわかると、色々気づきがありそうだ。

知的好奇心旺盛な方は、必ず楽しめる一冊である。


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